「トークルーム」




毎週火曜日の放課後、その時間はやってくる。
ヤボったいBGMと共に、決して質がいいとは言えないスピーカーから。

「はいどうも、今週もやって参りましたスクールラジオ、『今日の給食は構成がおかしい!』のお時間です」

「…また微妙な番組名だな」

「校内のみなさま聞いてますか?始まりますよ?…ってな訳でノブです」

「どうも、ミヤです」

「いや〜、しっかりとした挨拶はまず後回しにするとして、マジで今日の給食は微妙なメニューでしたねえ」

「…まあ、否定は出来ないけどさ」

「アレを和洋折衷と言っちゃうと、結構な誤解が生まれるよね」

「メインが食パンなのに、皿のおかずがひじきと焼き魚…ってヤツ?」

「そうそう、さらに椀物は中華風すいとんでやんのね」

「栄養バランスは悪くないんだけどねえ」

「いくら栄養のバランスが良くても、肝心のメニュー構成がダメだったら意味ねえよ。地球に優しいけど人に優しくない石鹸とか嫌だろ?」

「う〜ん、いい例えだなあ」

「サンキュー」

「…うん、まあ今日はノブの言い分に従うよ。っていうかさすがにボクもどうかと思ったもん」

「そうだよな?だって食パンとすいとんだぜ?炭水化物×炭水化物はやっぱ炭水化物だもん。おかしいって」

「でもさ、ひじきパンは微妙にアリかも。和風サンド、みたいな感じ?」

「あ〜、どっかのコンビニでやりそうだなあ、ソレ」

「和風サンド?」

「切干大根サンドとか、里芋の煮っ転がしパンとか」

「…どっちも微妙に語呂が悪いね。っていうかマズそう…」

「で、最終的には刺身とパンのコラボレーションが始まる訳ですよ」

「うわ、最悪…」

「そうなると当然、デザートもその路線で行くのね」

「ええっと…、さつまいものアイスとか、あずきケーキとか?」

「いや、筑前煮ゼリー」

「ダメでしょ、それは。っていうかただの煮こごりじゃん」

「ナイスツッコミ!さすがミヤ!」

「いやいや、今のは誰でもツッコむよ…」

「ははははは」

「気持ち悪いなあ、もう。だから僕たち、お昼の放送に使われないんだよ」

「別にいいんじゃね?だって昼の放送とかクソつまんねえもん。何でクラシックの名曲を解説入りで流さないといけねえんだよ、お嬢様しか入れない学校じゃねえんだからさ」

「でもノブ、クラシック詳しいじゃん?この前も解説が入る前に曲名当ててたし…」

「それとこれとは別。いくら俺がクラシックの知識を持っていても、今この場で喋ったところで笑いは生まれないだろ?それと同じで、給食時間にクラシックは場違いだと言いたいのですよ俺は」

「まあ確かに優雅な感じはしないよね」

「プラスチックの容器にスチール製のお椀だからな。ゴージャス要素は皆無だっちゅうハナシで」

「で、メニューは理解に苦しむ和洋折衷…と」

「そうそう。…ウチの学校、給食は基本的に美味いハズなんだけど、たま〜にハズレがあるんだよな」

「どうしてだろうね?」

「今度それとなく給食のオバチャンに聞いてみるか…」

「…ノブ、給食のオバチャンにもパイプがあるんだ…」

「おうよ、それも太いのがな。ごんぶとですよ」

「…それは何か違うと思う」

「そう?残念、伝わらなかったか」

「イマイチね」

「ま、それはさておき…と。パイプの話だけどさ、給食のオバチャンと仲良くなると嬉しい特典満載だぜ?マジでマジで」

「特典?」

「自分の好きな給食メニューの登場回数を増やしてもらったり、余ったパンや牛乳をくれたり、給食だけじゃ足りない時なんか、まかないメニューをご馳走してくれたりする」

「うわ、いいな、それ」

「…ナイショだぜ?」

「いや、ボクはいいけど、校内放送で言っちゃってるし」

「ああ、しまった〜」

「すごい棒読み。…また確信犯ネタだね?」

「…そんな冷めた目で見るなよ。このパターン、結構評判いいんだぜ?特にね、1年B組の高木さんには評判いいのよ、コレ」

「実名出すなよ。…っていうかそれ、マギーの真似も入ってる?」

「ご名答。あのね、この縦シマのハンカチをね、こうして…」

「いいよ、横シマにしなくて」

「…つれないなあ」

「ちょっと話がそれすぎてたからね。そろそろ軌道修正しないと。…一応さ、コレも校内放送なんで、時間枠とかあるのよ」

「へいへい。そんじゃ話を今日の給食に戻しますか」

「あ、まだ掘り下げるポイントがあったんだ」

「さっき少し会話に出てきた『和洋折衷』って言葉だけどさ、未だにテレビで「え?これって”わようおりも”って読むんじゃないんですか〜?」とか言うアイドルいるよね」

「あ〜、いるかも」

「もうね、そんなセリフを吐く時点で4流確定ですよ」

「手厳しいなあ」

「計算なのか天然なのか知らねえけど、やめて欲しいよね」

「寒いの嫌いだもんね、ノブは」

「きっとアレだぜ、『月極駐車場』も”げっきょくちゅうしゃじょう”とか言うんですよ」

「はははは」

「そんなの見せられてみ?舌打ちしか出ませんよ」

「スゲー想像しやすいよ、ノブが舌打ちしながらTV見てる画」

「…ま、そんなこんなでこの話題は終了!これ以上話しても不機嫌になるだけだからね」

「唐突だなあ。…まあいいけど」

「おっと、気付いたらもう放送時間の半分近く使っちゃってるじゃないですか。この辺で何か曲でも流す?」

「いやいや、何も用意してないじゃん。っていうか今まで一回も音楽なんか流してないよ」

「ナイスツッコミ!」

「誰でもするよ…」

「じゃあ景気良く次の話題、行きますか」

「はいはい」

「では続きまして…、『今日の教頭』のコーナー!」

「バカ、それはもうやめろって言われたじゃん!マジでそれはヤバイって!」

「構わねえ!ペンは剣より強し!ならば同様にマイクも強し!」

「ダメだって言ってんだろ!このっ!」

「みなさん!実は教頭の嫁は今ので3人目―」

「それはダメ!そればっかりはダメー!」

「しかも策略結婚の疑いが――」

「やめろって!…くそっ、こうなったら…」

「うおっ!?ちょ、ちょっと待てよ!」

ガタン、ガタガタッ!



…そして静寂。
スピーカーからはノイズすら聞こえてこない。

音量ツマミをゼロにしたのか、それとも何かのはずみでコード類が抜けたのか。
どちらにしろ、ここで校内放送は一旦中断。結局そのまま終了となった。

…火曜日の放課後、たった20分の校内放送。
喋っているのは勿論この学校の生徒。放送部に所属している普通の中学生である。

この2人が番組を担当するのは毎週火曜日だけ。
しかし、この校内放送は生徒の大半から支持され、面白いと評価されている。

ローカルネタ満載、きっとこの学校の生徒以外には伝わらないであろう話題が多い2人の会話。
内容は基本的に毎回このような感じで脈略の無いまま進むが、最後はしっかり話にオチや総評を付けて終わる辺りはなかなかのものである。

だが、内容が内容だけに大部分の教師から放送停止を求める声が上がっており、職員室内でも常に議題になっていたりする。

おそらく、いや間違いなく今日の内容も職員会議の議題として挙げられるだろう。
そして怒りに満ち満ちた教頭の独壇場で会議は行われ、2人は放送部を追放される事になるに違いない。

これで2人の担当する校内放送放送(タイトルは毎回アドリブで決定するため正式なプログラム名はない)、面白さ満載だが問題も満載というお騒がせ名物番組はなくなってしまう…のだが、この程度で引き下がる2人ではない。

すでに…というか、こういう事は往々にして、そしていつ起きてもおかしくないため、2人は以前から退部を命じられた後の活動計画を立てていた。

放送室ジャック、ネット配信、ミニラジオ局の開設、メルマガ発信…と、彼らの選択肢・活動の場はまだまだ残されている。

今はまだ限りなく小さいフィールドでの活動だが、いつしか2人は活躍の場を広げ、この強制退部のエピソードまでもが有名になる…かもしれない。

しかし、そんな遠い先の話とは別に、今現在の時点で確定している事がある。

今日の放送は校内で聞いていた生徒達に大きな印象を与えた。衝撃と言ってもいいかもしれない。
それは残念ながらすでに帰宅し、放送を聞けなかった生徒達を悔しがらせ、2人にもう一度校内放送をやらせるべきだ、という意見の高まりの一端を担った。

この「2人をもう一度〜」というムーブメントはこれから大きな広がりを見せる事となる。

学年、クラスの枠を越え、さらには生徒会をも動かしての復活運動は校内の一大イベントとなり、学校際や修学旅行以上に盛り上がる結果になる事を、2人はまだ知らない。

彼らがもっと大きなフィールドで活躍するのはまだまだ先かもしれないが、彼らの校内放送が再び再開されるのは、意外とすぐ先…かもしれない。




                                           「トークルーム」 END 






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