「脱走!ウイークエンド」


あらすじ

主人公は楽しい事、面白そうな事には後先考えずに首を突っ込むお調子者の高校2年生。そのため、よくトラブルも起こすが、持ち前の明るい&人を惹きつける性格のおかげか、彼の通う学園内ではちょっとした有名人として知られている。

物語はそんな主人公がいつものように何かをやらかし、職員室で説教をされている所から始まる。そして主人公は週末の休みを返上して補習を受けるよう言われるのだが、その日は遠くに住む彼女との久々のデートの日。主人公は何とか日時をずらしてもらおうと懇願するが聞き入れてもらえず、仕方なく補習をサボって彼女に会いに行くことにする。

彼の通う学園は山の奥にあり、また寮住まいでもあるため、デート当日は早朝から寮を抜け出さないといけない。しかもふもとの街へ続く道を通るには学園の外出許可書が必要なため、主人公は険しい山道を通ることを余儀なくされる。しかし、その山道には主人公のように無断外出を図る生徒への対策・戒めとして数々の罠が仕掛けられたり、地形が自然の要塞となって行く手を阻んでいる。
主人公はそんな厳しい山道を1人で降りようと考えるのだが、そこに協力を申し出る友人と後輩が現れる。

心強い&頼れる協力者を得た主人公は仲間と力を合わせ、山中に仕掛けられた数々の困難を乗り越えて無事に下山。晴れて愛しの彼女とのデートを楽しむことが出来てハッピーエンド、というのがおおまかなあらすじです。


キャッチコピー

この物語のキャッチコピーは『僕は、一生懸命にバカをやる』です。
自分もそうでしたが、学生時代(特に高校生の頃)はどんな事、それこそ傍から見ればバカバカしい事にも一生懸命になれたように思えます。
ただ彼女に会いたい、それだけでも理由は十分、例え割に合わなかったり危険が伴おうと、そんな事はお構いなしに目的に向かって一直線に進む…。そんな純粋さ、情熱めいたものに対し、褒め言葉として「バカ」という単語を使い、キャッピコピーを考えてみました。
この作品を通し、現在学生の方には「1つの事に向かって一生懸命になることの素晴らしさ」を、大人の方には「学生の頃に抱いていた情熱や熱意といった気持ち」を思い出してもらえたらな、と思ってこの話を書きました。


登場人物紹介

・主人公
赤坂 智之(あかさか ともゆき)
17才、高校2年生。
楽しそう、面白そうだと思った事には迷わず&すぐに飛びつき、直感とその場のノリで行動するお調子者。その行動が結果としてトラブルにつながる事も多いが、持ち前の明るさと機転の良さで回避・解決していく。
運動神経に優れ、補習や罰の代わりに運動部の助っ人を命じられ、大会や試合に出ることも。
学校の成績はジャスト中間といった所だが、真面目に勉強すればかなり上位を狙えるだけの頭の良さを持っている。

・友人
越前谷 崇(えちぜんや たかし)
17才、高校2年生。
智之のクラスメートにして親友。成績優秀に加え、智之に匹敵するだけの運動神経も持ち合わせている。
長い付き合いのたまものか、智之の突飛な行動・言動にも動じることなく付き合うor同行する事が出来る。
良きツッコミ役であり、まとめ役でもある苦労人。しかし本人はこの役回りを楽しんでいる。

・後輩
白川 秋穂(しらかわ あきほ)
16才、高校1年生。
智之達の後輩。入学直後、勝手が判らずに困っている所を智之と崇に助けられ、以降良き先輩として慕ってくるようになる。性格は超が付くほど素直で、感情がすぐに顔に出る。
ソフトボール部に所属し、1年生ながらも先発を任せられる速球派のピッチャー。

・先輩
清水 ノブマサ
18才、高校3年生。
智之達の上級生。智之とは異なるタイプのどうしようもないトラブルメーカー。あまり良くない噂が多く、学園の要注意人物として知られる。
智之達とはほとんど面識はないが、3人の学園脱出計画を知り、無理矢理同行する事になる。

・彼女
相原 ちさと(あいはら ちさと)
17才、高校2年生。
智之の彼女。人当たりの良い性格で誰からも好かれる笑顔が魅力の女の子。とてもおとなしいように見られるが、実は意外とおちゃめで智之同様ノリ重視な面もある。
智之の人間性、本当は絶えず周囲に気を配る性格をしっかり理解している、とてもよくできた女の子。







「脱走!ウイークエンド」

本編


・場面は主人公である智之が通う山奥の学園全景から始まり、校舎のアップ、何人かの生徒が歩く廊下、「職員室」と書かれたプレート…と続いたところで、職員室の扉の向こうから智之の叫び声が。

智之:
「ええええ〜!?」

この大声に廊下を歩いていた生徒達はビクッと反応、立ち止まったりビックリした表情を浮かべながら職員室の扉を見つめる。
そして場面は職員室の内部に移り、智之が教師に向かって必死にお願いしている画に変わる。

智之:
「そんな…、その日だけは勘弁して下さいよ〜。他の日ならしっかり補習受けますから…。
お願いします!この通り!」

そう言ってパチンと手を合わせ、智之は頭を下げる。

教師:
「い〜や、何があろうとも補習は今週末、土曜と日曜の2日間、みっちりやってもらう。諦めろ」

智之:
「そこを何とか!マジでその日はマズイんですよ…」

教師:
「ダメだ」

智之:
「…そうだ!じゃあまたどこかの運動部の助っ人をやります!それで何とかチャラにして下さいよ〜。ホラ、野球でもバスケでも何でも―」

教師:
「今はどの部も大きな試合や大会はないんだ、助っ人はしばらくいい。…今回ばかりは諦めろ、いいな赤坂」

智之:
「マジっすか…」

ガクン、と肩を落とし、観念したようにうなだれる智之。
ここで職員室での場面は終了、続いて智之がしょんぼりしながら廊下に出る場面に。


―ガラガラ…

智之:
「しつれいしました〜」

そう言って智之は大きなため息をつき、トボトボと廊下を歩き出す。
そして智之の心境セリフによる自己紹介と状況説明が始まる。

智之:(心境セリフ)
…オレの名前は赤坂智之、この学校に通う生徒だ。
まあお世辞にも優秀な生徒、とは言えないだろうが、これでも運動神経と身体能力にはちょっと自信があったりする。
で、その実力はと言うと、大事な試合や大会になると色んな部から助っ人を頼まれる程。
野球にサッカー、バスケにバレーといった球技から、空手や陸上まで幅広くこなせるのがオレの数少ない自慢だ。

智之:
「…でも今回はその自慢も役に立たない…か」

智之はつぶやくようにそう言うと、トボトボ歩いたまま視線を窓の外に向ける。
その視線の先にあるのは用務員が使う小さい焼却炉。

智之:
「う〜ん、ちょっとヤバイかな〜とは思ったんだよ。…でもさ、ああいう状況になったら普通やっちゃうって。っていうかやらない方がおかしいでしょ?」

そうブツブツ言いながら歩き続ける智之。そして再度心境セリフへ。

智之:(心境セリフ)
…ええっと、どうしてオレが今こんなに落ち込んでいるか、そして職員室で説教&補習を言い渡されたかと言うと、これがまた深くて難儀な理由があったりするんだわ。…マジでマジで。

とりあえず…そうだな、まずどうして説教されるハメになったか、ってのから説明しようか。
これは一昨日、火曜日の放課後の出来事だ。いつものように学園から寮に戻ろうとすると、
その途中で仲のいい用務員のおっちゃんに会ったんだ。
そのおっちゃんは農業もやってて、よくオレに家で取れた野菜をくれたりする。
…で、火曜日もジャガイモをたくさんもらったんだけど、ちょうど学園には手ごろな焼却炉があるんで、焼き芋にして食べることにしたんだ。
…と、まあここまでは全然普通の流れですな。

この時、場面は智之が焼き芋をする様子が回想シーンとして流れる。

まずもらったイモをよく洗い、家庭科準備室から借りてきた…というか勝手に持ってきたアルミホイルに包む。
そして職員室にあった破棄書類っぽいのや古いプリントの束を持ってきて、イモと一緒に焼却炉へGO。
…で、本当は塩だけで食べようとしてたんだけど、焼きあがるまで意外と時間が必要だったんで、一旦寮に戻ってバターや醤油、マヨネーズやケチャップなんかを持ってきちゃったんだよね。

…いや〜、これがよろしくなかった。
そのせいで焦げた醤油とバターのいい香りが学園中に広がり、イモを焼いてることが思いっきりバレちゃった、と。
しかも運の悪い事に、破棄書類だと思ってた中にメチャクチャ大事な紙が入ってたんですよ。
何か聞くところによると今度のテスト問題だったとか。そりゃあ思いっきり怒られますわな。

智之:
「…はあ」

大きくため息をつき、ポリポリと頭を掻く智之。

智之:(心境セリフ)
…と、まあそんな事があり、さっきまでこっぴどく怒られていたんだ。
しかも「今後一切学園内でイモを焼きません」っていう誓約書まで書かされたんだぜ?
そこまでしなくてもいいだろ…

と、ここで廊下を歩く智之の前に2人の生徒、友人の越前谷崇と後輩の白川秋穂が現れる。

崇:
「よう、トモ。お疲れさん」

秋穂:
「すごく長い時間怒られてたみたいですね…」

軽く手を挙げて挨拶する崇と、心配そうに智之を見る秋穂。
智之は2人に気付くと、うらめしそうな表情を浮かべながらゆっくり近づく。

崇:
「うわ、キモっ」

秋穂:
「先輩、動きがゾンビになってますよ…」

智之:
「やべ〜よ、土日は休み返上で補習だってさ。うが〜。へな〜」

ゾンビのような動きで崇に向かっていき、襲い掛かるように倒れこむ智之。
しかし崇はサッと身体をひねり、智之をかわす。そのため智之はグシャリと廊下に倒れる。

崇:
「お、顔面から」

秋穂:
「セ、センパイ、大丈夫ですか…?」

智之:
「…痛い」

智之は廊下に倒れこんだままの体勢でそう言い、ゆっくりと起き上がる。

秋穂:
「あ、センパイ、すごいホコリがついてます…」

智之に近付き、制服をポンポンと叩いてホコリを落とす秋穂。
すると続いて崇も智之に近付く。

崇:
「本当だ、ちゃんと落としてやらないとな」

そう言って智之をバシバシ叩く。

智之:
「痛い痛い痛い、地味に痛いって」

崇:
「あ、スマン」

智之:
「今のは完全に確信犯だろ…」

非難の目で崇を見る智之。そしてこの2人を紹介する心境セリフへ。

智之:(心境セリフ)
…いきなり現れたこの2人は共にオレの知り合い、越前谷崇と白川秋穂だ。
崇はオレのクラスメートにして親友、学年トップクラスの成績優秀者で、さらに学園の誰もが認めるナイスガイ、という完璧超人だ。

白川秋穂、通称アッキーは1年下の後輩で、強豪で知られる我が校のソフトボール部期待の新人。
聞くところによるとすでに先発ピッチャーとして試合のマウンドに立っているらしい。

元々崇とは学園入学時から仲が良く、そこに今年から後輩のアッキーが加わった。
一見オレ達とアッキーに接点はないように見えるが、彼女が入学して間もない頃に困っているのを偶然見つけ、色々と助けたのがきっかけで今に至っている。
そんなこんなで最近は3人でいることが多く、毎日それなりに楽しくやっている。

…ちなみにさっきの説明の続き、どうしてオレがこんなに落ち込んでいるかと言うと…

と、ここで崇が智之に話しかけてくる。

崇:
「それにしても…、今週の土日ってマズくないか?確か…」

智之:
「そ、バッチリ今週なんだよ。これがせめて来週とかだったら全然平気なんだけどな〜」

秋穂:
「?、どうしたんですか、センパイ?今週は何か予定が入ってるとか?」

2人のやり取りを聞き、首をかしげながら質問してくる秋穂。

智之:
「正解。しかもこればっかりは外せない、大事な用なんだ」

と、ここで再び智之の心境セリフ。

智之:(心境セリフ)
…そう、こればっかりは外せない。もうずっと前から入れていた、大切な人との約束。
それは…

崇:
「愛しい彼女と2ヶ月ぶりのデートだもんな、今度の土曜は」

智之:
「…そゆこと」

智之:(心境セリフ)
崇の言った通り、今度の土曜は彼女との久々のデートの日。
こんな山奥の学校に通い、しかも寮生活をしているため、オレと彼女はそう頻繁には会えない。
さらにここ最近はお互い色々と用事が重なり、デートはずっとおあずけ状態。
やっとのことで今度の土曜、久し振りに会えると思ったら休日返上で補習を入れられたのだ。
…ちくしょう、やっぱイモはシンプルに塩で食っておけばよかったぜ。

秋穂:
「ええっ!?センパイってお付き合いしている方がいたんですか!?」

事情を知っている崇とは逆に、ビックリした様子の秋穂。

智之:
「あれ?アッキーには喋ってなかったっけ?」

秋穂:
「初耳ですよぅ。…で、どんな方なんですか?かわいい系ですか?それとも美人系?」

崇:
「お、スゲー食い付き」

智之:
「う〜ん、まあ、その…、どっちかと言えば”かわいい”になるかな?」

崇:
「こっちはこっちで照れてる…いや、ただのノロケか」

智之:
「うっさい!」

秋穂:
「へ〜、いいなあ、すごいなあ、うらやましいなあ〜。…そっか、センパイは彼女さんがいたんですねえ」

智之:
「ははは、いいだろ〜?」

秋穂:
「はい!うらやましいです!」

崇:
「…でも補習が入っちまったんだよな」

智之:
「うっ!」

秋穂:
「あ、凍った」

崇:
「どうするんだ?ちさとちゃんに事情を説明して今度にしてもらうのか?」

智之:
「…いや、今回のはちょっとカッコ悪すぎて話せねえよ。
さすがに『イモ焼いたのがバレて補習になった』とは言えないって…」

崇:
「だよなあ」

秋穂:
「う〜ん、確かにそれはイヤかも」

智之:
「アッキーもそう思うよなあ」

秋穂:
「はい。…あ、じゃあまたどこかの部活の助っ人さんをやればいいじゃないですか?
確かこの前もそれで罰掃除1ヶ月を免除してもらえたって…」

ナイスアイディア!と言わんばかりの顔になる秋穂。しかし智之は力なく首を振る。

智之:
「いや、それもダメなんだ。何か近い内に助っ人が必要な部はないってさ」

秋穂:
「そうだったんですか…」

崇:
「そうなるとマジで八方塞がりだな。…どうすんだ、トモ?」

智之:
「…う〜ん…」

頭をボリボリ掻いて悩む智之。
そして少し間を置いた後、大きく息を吐いて顔を上げる。

智之:
「よし、ここは正々堂々…」

崇:
「お」

秋穂:
「センパイ…」

智之:
「補習をサボろう!」

崇&秋穂:
「え〜」

智之の言葉にカクッと崩れる2人。

崇:
「マジか…、まさかそうくるとは思わなかったぜ」

秋穂:
「正面突破、というか…大胆な決断ですね。さすがセンパイ」

智之:
「まあな、発想の転換ってヤツだ」

崇:
「…なんでちょっと誇らしげなんだよ、アッキーは褒めてないって。しかも全然発想の逆転じゃないし」

智之:
「まあまあ、その辺は突っ込んでくれるな親友」

崇:
「誰だよ、そのキャラ…」

智之:
「それより、だ。補習をサボる事自体はいいんだが…」

秋穂:(心境セリフ)
…いいの?

崇:
「ああ、その後のことか…」

智之の言いたいことを察したのか、崇は表情を曇らせる。

智之:
「そうなんだ、問題はどうやって街まで行くか、これが厄介なんだよな…」

秋穂:
「あ、そうか…。さすがに外出許可書はもらえませんもんね」

智之:(心境セリフ)
…そう、アッキーの言う通り、この学園から外に出るには外出許可書が必要になる。
これがないと正門を開けてもらえず、街に続く唯一の手段が絶たれてしまうのだ。
普段なら簡単に発行してもらえるのだが、残念ながら今の自分は補習が確定している身。
おそらくどんな仲のいい教師に頼んでも発行はしてくれないだろう。

崇:
「まあ、一応街に降りる手段がない訳ではないんだけど…な」

智之:
「それなんだよねえ。確かに『全く無い』ではないんだけど…、多分かなりキビしいだろ」

秋穂:
「え、それってもしかして…」

そう言って秋穂は廊下の窓に視線を移し、そこから見えるうっそうとした森を見つめる。

智之:
「はい、アッキー正解。スーパーともゆき君人形をあげよう」

秋穂:
「やった〜、ありがとうございま〜す…って、そうじゃなくて!」

智之&崇:(心境セリフ)
…お、ノリツッコミ。

秋穂:
「もしかしてセンパイ、裏山から降りるつもりなんですか?」

智之:
「う〜ん、まあそうなるわな」

秋穂:
「そんな…、だって裏山はすご〜く危険って聞きましたよ。いくらセンパイでも危ないですよぅ」

智之:
「…」

秋穂の言葉に対し、智之は無言になって考え事を始める。そしてここで裏山に関しての心境セリフが入る。

智之:(心境セリフ)
さっき崇も言っていたが、この学園から山のふもとにある街へ行く手段は正規のルートただ1つ、という訳ではない。
崇の言葉通り、『一応』ではあるが別のルートがあるのだ。
それは正規の道路がある方向とは別、校舎の裏側に位置する北側のルートを下っていく、というもの。
他の方向は谷があったり、降りたとしても街には行けない場所に出るため、正規の道以外には北側を下山するしかない。
…この山の北側、通称裏山と呼ばれている方向は勾配がキツく、野道すらない森が広がっているため、非常に進みにくい。
しかもご丁寧な事に、この北側には学園側が用意した対脱出生徒用の罠まで仕掛けられている、という徹底っぷり。
元々自然の要塞になっているのだから、そこまでやらなくてもいいと思うのだが…

ったく、軍隊の養成学校じゃねえんだぞ。
…まあ、オレのように学校を抜け出そうとするヤツが多いからこうなるんだけど。

智之:
「…」

しばらく無言が続いた後、智之は意を決したように凛とした表情を浮かべ、秋穂の方を見る。

智之:
「それでも、危険だって分かっていても、行くさ」

秋穂:
「センパイ…」

智之:
「勿論、普通に考えれば無謀、バカな事をしようとしてる、ってのも分かってる」

崇:
「お、自覚症状アリ」

智之:
「でも、今のオレにとって土曜の約束はそれだけ大事なんだ。…だからオレは行く」

崇:
「…こりゃあ本気だな」

秋穂:
「センパイ、何かカッコいいです〜」

智之の決意の程を知り、穏やかに微笑む崇と秋穂。

智之:
「ま、そんな訳で土曜はオレ、寮にいないんでヨロシク。もし誰かがオレを探しに来たら適当にごまかしておいてくれよ」

そう言って智之は1人スタスタと歩き出し、軽く手を挙げながら2人と別れる。

崇&秋穂:
「…」

その場に残る崇と秋穂。
だがすぐに崇が口を開く。

崇:
「…なあ、アッキー」

秋穂:
「はい、何でしょうセンパイ」

崇:
「多分だけどさ、オレとアッキーが今考えてる事、同じだと思うんだよね」

秋穂:
「そうでしたか…。やっぱりセンパイも?」

崇:
「ま、あれだけイイ顔を見せられたら協力したくなるって」

秋穂:
「わたしもですよ〜」

崇&秋穂:
「…」

軽くお互いを見つめ合った後、ニヤリと笑って同時に頷く2人。
そして後姿のまま手をひらひらと振って去ろうとする智之を追いかけ、走り出す。

崇:
「おい、待てよトモ!」

秋穂:
「わたしたちがお手伝い致します〜」

この2人の声に立ち止まり、振り向く智之。
そして場面は変わり、夕日で赤く染まる校舎の屋上へ。


・場面は学園の屋上、そこに3人が座り込み、土曜日の下山計画を練っている…という状況。

智之:
「…それじゃあ集合時間は朝7時、場所は男子寮の裏門、ってコトで」

崇:
「了解」

秋穂:
「はいっ、わかりました!」

智之:
「…ホント、崇もアッキーもサンキュな。完全にオレの私用なのに…」

秋穂:
「気にしないでくださいよぅ。いつもセンパイ達にはお世話になってるんですから、たまにはお手伝いさせてくださいよ〜」

智之:
「アッキー…、キミは本当にいいコだなあ」

秋穂:
「にゃは〜、褒められちゃいました〜」

照れ笑いを浮かべる秋穂。しかしその隣に座っている崇の表情は曇り気味。

崇:
「…ま、手伝うと言った割には具体的な案は何も出せなかったんだが…」

智之:
「それは仕方ないでしょ。あの山の地形を知り尽くしてるヤツなんてそういないって。…それに一緒に来てくれるだけでも十分心強いであります上官!」

申し訳なさそうな顔の崇に対し、笑顔でそう答える智之。

崇:
「そうか…」

智之の言葉に口元を緩ませ、フッと笑う崇。

智之:
「…確かにテストで言うところの傾向と対策、みたいな事はほとんど決まらなかったけどさ、それでも色々と確認出来たじゃん。大きな収穫だよ」

崇:
「トモ…、お前って本当にプラス思考なヤツだな」

崇の言葉に横で秋穂が大きく頷く。
…と、そこに3人とは別の声、上級生である清水ノブマサの声がどこからか聞こえてくる。

ノブマサ:
「お前ら、面白そうな事やろうとしてんじゃねえか。…なあ、オレも混ぜろや」

智之&崇&秋穂:
「!?」

突然聞こえてきた声に驚き、周囲を見回す3人。
だが智之と崇はすぐに声が発せられた方向を特定し、素早く視線を向ける。

ノブマサ:
「よう、後輩」

2人が視線を向けた先は屋上の扉の上、ハシゴで登らないといけない一番高い場所。
ノブマサはそこから上体を覗かせ、3人に話しかけてくる。

智之:
「清水…さん、か」

崇:(小声で)
「チッ、また厄介な…」

非常に迷惑そうな顔になる智之と崇。
その横ではようやく声の主を把握した秋穂が同様の表情を浮かべている。

ノブマサ:
「おいおい、先輩に向かってその態度はよろしくないなあ。オレも協力してやる、って言ってるんだぜ?」

ノブマサはそう言うとハシゴに手をかけ、ゆっくりと降り始める。

崇:(小声で)
「おい、どうするトモ?なんかついて来る、って言ってるぞ?」

秋穂:(小声で)
「え〜、わたし清水センパイ苦手ですぅ〜」

智之:(小声で)
「どうする、って言われても…。わかんねえよ」

こうして3人が小声で話している間にノブマサはハシゴを降りきり、智之達に近付いてくる。

ノブマサ:
「確かオマエ…赤坂、だったよな」

智之:
「はい…」

ノブマサ:
「またどうして裏山なんか降りる気になったんだ?普通に許可書をもらえばいいじゃねえか」

智之:
「それは…、土曜は補習が入ってるんで…」

ノブマサ:
「ふ〜ん、じゃあサボって街に遊びに行こうとしてるんだな。…なるほど、話が見えてきたぜ」

ククク…と薄ら笑いを浮かべるノブマサ。

ノブマサ:
「実はな、オレもちょっとやらかしちまって、1ヶ月の外出禁止を食らったんだ。
…でもやっぱ街に遊びに行きたくてよ、どうしようか考えてたとこなんだよ」

智之:
「はあ、そうっスか…」

ノブマサ:
「てな訳でさっきまでオマエらが喋ってた土曜の下山、オレも連れてけ」

崇:
「…いやいや、いきなり何言ってるんスか、先輩」

智之とノブマサの会話に割って入ろうとする崇。
しかしすぐさまノブマサが言葉を返す。

ノブマサ:
「おいおい、いいのかそんなクチ聞いて?今から職員室行ってオメエらの計画バラしてもいいんだぞコラ?」

崇:
「クッ…!」

痛い所を突かれ、悔しがる崇。
そして仕方なく、といった感じで引き下がる。

智之:
「…わかりました。それじゃあ先輩も土曜の朝7時、寮の裏門まで来てください」

崇&秋穂:
「!?」

いいの!?と言わんばかりの表情を見せる崇と秋穂。
一方、当の智之は平然とした顔でノブマサを見ている。

ノブマサ:
「よ〜し、決まりだ。そんじゃ土曜日は仲良くやろうや。
…おっと、先に言っておくが、オレを置いていったりしたらどうなるか、分かってるよな?」

そう言ってノブマサはニヤリと笑い、屋上から去っていく。

智之&崇&秋穂:
「…」

無言の3人。
そしてギイイ…バタン!という扉が閉まる音が鳴り、ノブマサが完全にいなくなった所で崇が口を開く。

崇:
「…おい、いいのかよ?」

智之:
「仕方ないだろ、断って厄介な事になるよりはマシさ」

崇:
「まあそうかもしれねえケドさ…」

秋穂:
「…でも、ちょっと不安です…」

智之:
「ゴメンな、アッキー」

秋穂:
「いえ、わたしはいいんですけど、これでセンパイが彼女さんに会えなくなったりしたらイヤだなって…」

智之:
「大丈夫、それはないって。…さ、オレ達も行こうぜ」

崇:
「ああ…」

秋穂:
「は、はい」

完全には納得できない様子の2人。
ここで智之の心境セリフが入る。

智之:(心境セリフ)
…こうしてオレ達は予定外のメンバー1人を加えながらも、下山を実行することになった。
2人の前ではああ言ったものの、やはり多少の不安はある。
しかし、もう他に手段は見当たらない。
…そう、やるしかないのだ。

この智之の心境セリフで屋上でのシーンは終了。
そして場面は暗転、智之の「…そして土曜日…」というナレーションが流れ、土曜日の朝へ。


・場面は土曜の朝、チュンチュン…というスズメの鳴き声、朝露に濡れる草木といった情景が展開。
そして待ち合わせ場所である男子寮の裏門に智之と崇が立っている画に。

智之:
「ん〜」

大きく伸びをする智之。その隣では崇が腕時計を見ている。

智之:
「お、来た来た」

智之がそう言うと、遠くから秋穂が姿を現す。

秋穂:
「おはようございます〜」

智之:
「おっはよ〜」

崇:
「よう」

秋穂:
「どうもです…って、アレ?清水先輩は?」

智之:
「ああ、今来るってさ」

崇:
「ったく、30分前に一度起こしに行って正解だったぜ」

秋穂:
「ははは…そうですか…」

苦笑いを浮かべる秋穂。
するとその時、男子寮の方からノブマサが姿を見せる。

ノブマサ:
「…うぃ〜す。悪ぃ悪ぃ」

まだ眠たそうなノブマサ。足取りもふらついていて、完全に寝起きの状態。

智之:
「あの…大丈夫っすか?すぐに行きますよ?」

ノブマサ:
「おう、楽勝よ」

崇:
「…はあ」

わざとらしく大きくため息を吐く崇。
しかしノブマサはそんな崇の様子に全く気付かず、そのまま山に向かって歩き出す。

ノブマサ:
「よ〜し、それじゃ行くぞ〜」

そう言って勝手に先頭に立ち、仕切り始めるノブマサ。
その様子に崇が何か言おうとするが、智之に止められる。

崇:(小声で)
「…おいトモ、あんなのに先頭歩かせていいのかよ?」

智之:
「いいっていいって。どうせすぐに『先頭を代われ』って言ってくるから」

崇:
「本当かよ…」

智之の言葉に半信半疑の崇。
するとその直後、先を歩いていたノブマサが情けない声を上げる。

ノブマサ:
「うおっ!?なんだこりゃ、メチャクチャ歩きにくいじゃねえかよ!」

4人は全く道の無い場所を歩いているため、ノブマサの言う通り、非常に歩きにくくなっている。

ノブマサ:
「くそっ、木の根がジャマなんだよ…って、うあぁっ!!」

バランスを崩し、派手に転ぶノブマサ。早くもドロだらけになってしまう。

崇:
「センパイ…大丈夫っすか〜?」

そう言いつつも、口調や表情は全く心配していなそうな崇。
その奥では秋穂が笑いをこらえている。

ノブマサ:
「…くそっ!」

悪態を付きながら起き上がるノブマサ。
そして近くの木を蹴って八つ当たりし、イライラした様子でどんどん先へ進んでいく。

智之:
「お、怒ってる怒ってる」

崇:
「こりゃあトモの言う通り、もうちょいで『先頭を代われ』って言いそうだな」

智之:
「多分ね。…あ〜あ、ガンガン進んじゃって…。あれだとまたすぐに転んじゃ―」

ノブマサ:
「うあっ!」

智之のセリフが終わらない内にまたしても悲鳴を上げるノブマサ。
今度はツタのような植物にからまり、バタバタと必死にもがいている。

崇:
「なんか、こう…、お約束な展開ってヤツだな」

秋穂:
「そうですね…」

智之:
「それじゃあ次は何だろうな?」

秋穂:
「う〜ん、ヘビか落石じゃないですか?
いきなりヘビが目の前に!とか、ありえない方向から岩がゴロゴロ…と!みたいな」

崇:
「それじゃナントカ探検隊じゃねえかよ…」

智之:
「ま、ちょっとした大冒険ではあるわな」

秋穂:
「…あ、その前に猛獣に会わないと!」

崇:
「いやいや、だから違うって」

ノブマサ:
「おい!オマエら見てないで助けろよ!」

ツタにからまっているのを見ながら会話をしている3人に向かって怒鳴るノブマサ。


・ここで場面転換、ツタから抜け出したノブマサが肩で息をしている(=智之達が助け出した後)、という状況に変わる。

ノブマサ:
「はぁ、はぁ…。おい赤坂、次からオマエが先頭を歩け」

智之:
「わかりました。じゃあ先輩は一番後ろでお願いします」

ノブマサ:
「ああ。…よし、じゃあ行くぞ」

智之:
「へ〜い」

崇:
「まだリーダー気取りだよ、この人」

秋穂:
「ははは…」

崇の言葉に対し、乾いた笑いを浮かべる秋穂。
その後ろではまだ息が上がっているノブマサの姿が。

智之:
「よし、それじゃ行きますか。…みんな、足元には気を付けて」

そう言って智之は先頭に立って歩き出し、その後方に3人が続く。
こうして少しの間は何事もなく進むが、ここからノブマサの不幸&トラブルが連発。

まずノブマサの前を歩いていた秋穂が落ちていた木の枝を踏むと、ちょうど他の木の根が支点となり、テコの原理で枝の反対側が勢いよく跳ね上がり、ノブマサの股間に直撃。

続いて崇が視界を遮る葉っぱをどかすため、枝ごと曲げてその場を通行。すると崇が通り過ぎて手を離した途端、曲げられていた枝が勢いよく戻り、ムチのような打撃がノブマサの顔面を直撃。

さらに秋穂が冗談として言っていたヘビも登場。秋穂が知らずにヘビを踏みつけ、次にノブマサが通ろうとした所で怒ったヘビがニョキッと頭を出す。
それを見たノブマサは真っ青になってパクパクと口を動かし、言葉にならない言葉を発する。

…と、これらの出来事が次々と起きる。
そして場面転換、再び肩で息をしているノブマサがとうとうキレる、というシーンに。


ノブマサ:
「あ〜!ヤメだヤメ!オレは帰る!」

智之:
「え、街に行かなくてもいいんですか?」

ノブマサ:
「うるせえ!もうたくさんだ!」

崇:
「見事な逆ギレだな…」

秋穂:
「ですね」

ノブマサ:
「いいか、止めてもムダだぞ!…ったく、部屋で寝てた方が全然マシだったぜ…」

ブツブツ文句を言いながら、帰ろうとするノブマサ。
それを見た智之は慌ててノブマサに声をかける。

智之:
「あ、センパイ!そっちは違…」

ノブマサ:
「うっせえ!止めるなって言っただろ!」

智之:
「でも…」

崇:
「…いいって、行かせてやれよ」

それより先を急ごうぜ、と言わんばかりの崇。
そんな崇に智之も仕方なく頷く。

智之:
「う〜ん、学園がある方向とはちょっと違うんだけど…ま、大丈夫か」

秋穂:
「そうですね、教えてあげたくても『うるさい!』って言われちゃいますもん、仕方ないですよ」

秋穂はそう言って頬を膨らませ、ノブマサの後姿に向かって舌を出す。

崇:
「…でもアレだな、こういう『自分勝手なヤツが単独行動を取る』っての、映画とかだと大体その直後に…」

秋穂:
「あははは、ありますよね〜」

智之:
「さっきまでお約束連発だったからな、あの人。…う〜ん、あり得るかも」

本気なのか冗談なのか、そう言って考え込む仕草をする智之。

智之:
「…ん?」

その時、智之が近くの茂みにキラリと光るものを発見。そのままツカツカと近寄る。

崇&秋穂:
「?」

何が起きたのか分からない様子の2人をよそに、茂みの前にしゃがみこむ智之。
そして数秒後、巧妙に隠されたワイヤーを見つける。

智之:
「これは…」

崇:
「どうみても罠、だな…」

秋穂:
「ええっと、よく見ると山の上に伸びてますね」

智之:
「…で、その方向にセンパイは登っていった、と」

智之&崇&秋穂:
「…」

無言で見つめ合い、同時に『まさか…』という顔になる3人。
そしてこれまた同時に3人がノブマサが去って行った方向を見た瞬間、ピンと張っていたワイヤーが大きく揺れる。

…ガサガサッ、バサアッ!

遠くから木々の擦れ合う音が鳴り、続いてその音に驚いた鳥が鳴き声を上げながら一斉に飛び立つ。
するとその直後、ノブマサの情けない悲鳴がかすかに聞こえてくる。

ノブマサ:
「…降ろしてくれ〜…!」

崇:
「…吊られたな」

秋穂:
「…吊られましたね」

聞こえてきた音とノブマサの声から状況を察する崇と秋穂。
そこに智之も続く。

智之:
「網で包まれたか、それとも足を括られたか…。どちらにしても大ケガにはならないな。…よし、先に進もう」

崇:
「そうだな」

秋穂:
「どうしましょう?後で先生に報告しておきましょうか?」

智之:
「ああ、そうしてくれ」

そう言って3人はその場を後にし、下山を再開する。


・ここから場面は下山の様子をダイジェストで展開。
自然が造り出した障害や学園側が仕掛けた罠を3人で突破していく。
その手段、方法は3人全員で力を合わせたり、個々の力を発揮させたりと様々。

まず始めは崇の鋭い洞察力が生きるケース。
3人が普通に歩いていると、急に崇が前に出て2人を制す。
そして地面にある微かなくぼみを指差し、続いて近くに生えている木を慎重に調べる。
すると一本の木の幹に細いロープが巻かれているのを発見、グイッと引っ張るとくぼみを中心に地面から網が飛び出る。
その様子を見て『危なかった〜』という表情を見せる智之と秋穂。

続いては秋穂の出番。
見るからに怪しい茂みを発見した智之が小石を拾い、秋穂に手渡して茂みの中心に向かって投げるよう指示。
それに従い、見事なピッチングフォームで石を投げる秋穂。
石は見事ストライク、茂みの中心を捉える。すると茂みの中からガシャッ!という音が鳴り、周囲の木の上からオリのようなものが降ってくる。
その後、「よくやったアッキー!」と褒める智之。それに対し「テヘヘ、お役に立てました」と笑顔で答える秋穂。

次に現れたのは自然が造り出した障害、2メートルは軽く越えている壁のような斜面で、その側面はとても崩れやすそうな感じ。
智之達が進んでいるのは下り道ではあるが、ここは地形の関係で登りになっている。
この状況で力を発揮するのは智之の運動神経。
まず斜面近くの岩に向かってダッシュし、思いっきりジャンプ。そして岩の上部に飛び乗り、続いて横に生えている大木の幹に向かってジャンプ、そこから変則三角飛びの要領で斜面の上に着地する。
その後は智之がツタを垂らして1人ずつ引っ張り、斜面を登らせる。

次は少しお笑い要素を含んだ障害の突破。
3人は自分達より背の高い草が一面に生い茂る場所に出てしまい、この先がどうなっているのか、またどこを進めば近道かを調べるため、近くの木に登ることに。
しかし、近くには低い位置に枝がなく、登りにくい木が一本あるだけ。
そこで智之と崇が踏み台になり、2人の肩に秋穂を乗せて木に登らせる、という作戦を取る事に。
この作戦、秋穂が2人の肩に上がるまではよかったのだが、ここで智之が冗談で「アッキー、パンツ見えてる」と言ってしまう。
ちなみにこの時、秋穂はジーンズを履いているため、パンツが見えることはない。
しかし、この手の冗談に耐性、免疫のない秋穂はこの言葉に過剰反応してしまい、2人の肩の上で大きくバランスを崩す。
当然下の2人も大慌て、特にとばっちりを食う形になった崇は「アッキーにその手のジョークはやめろ!」と怒りがら必死にバランスを取る。
その後、秋穂は何とか木に登り、進むべき方向を智之に報告するのだが、さすがに少し怒ったのか頬を膨らませている。

そして最後は3人が力を合わせて罠に挑むシーン。
まず先頭を歩いていた智之が立ち止まり、不自然に土が盛られた場所を見つける。
その周辺を見てみると、地面に落とし穴と思われる箇所を発見。
この落とし穴はかなり分かりやすく、穴の上にカモフラージュとして敷いた草が枯れているため、容易に判別が可能。
一見ただの幼稚な罠に見えるのだが、ここで智之が「あまりにもあからさますぎる」と警戒。
念のため、落とし穴の上に石を乗せて見ると、現れた穴は異常に浅い。
これを見た崇は掘り返された土の量と穴を見比べ、まだ他にも落とし穴があると判断する。
その結果、先に見つけたものとは比べ物にならない大きさと深さを持った後し穴と、網が降ってくる複合トラップを発見。
ちなみに配置は手前に網の罠があり、その後方に落とし穴がひかえている、という状況。
すぐさま解除&突破を試みる3人。まず秋穂が網のトラップを発動させないよう、基点となるワイヤーを押さえる。
次に崇が智之に匹敵するだけの跳躍力を見せ、落とし穴を飛び越える。
そして最後にかなり長めの助走を取った智之が秋穂に向かって猛ダッシュ、そのままスピードを維持しながら秋穂を脇に抱え、今度は落とし穴の方向へ。
その瞬間、秋穂が押さえていたトラップが発動し、上から網が降ってくる。
しかし智之は間一髪でそれをかわし、落とし穴に向かって大ジャンプ。
さすがの智之も秋穂を抱えながらでは飛距離が伸びず、無事着地するには少し距離が足りない。
だが、ここで先に飛び越えていた崇が大きく手を伸ばし、智之をがっちりキャッチ。無事最大の難関をクリアする。

ここで下山ダイジェストは終了。
場面は3人が山を降りきり、街に通じる道路に出た、というシーンに変わる。


智之:
「やっと、着いた…」

崇:
「ふう、予想以上にキビしかったな」

秋穂:
「や、やりましたね、センパイ…」

額に汗を浮かべながら、無事下山出来たことを喜び合う3人。
その表情はさすがに少し疲れが見れるが、すぐにいつもの調子に戻る。

崇:
「時間は…1時半か。なあトモ、ちさとちゃんとの待ち合わせ時間は2時に駅前、だったよな?」

腕時計に目をやり、時間を確認する崇。

智之:
「ああ。…って、休んでる場合じゃないな。すぐに向かわないと」

よし!と気合を入れるポーズを取り、智之は街の方向を見つめる。

秋穂:
「お、燃えてますね、センパイ」

崇:
「まあトモの足なら全然間に合うだろ。…いや、ちさとちゃんの場合、待ち合わせの5分前には着いてないとアウトか」

智之:
「そうなんだよ、5分前行動が大原則だからな…」

秋穂:
「もしかしてセンパイの彼女さんって、時間に厳しい方なんですか?」

智之&崇:
「そりゃあもう!」

秋穂:
「うわ、ダブルで返ってきた」

智之:
「普段はホントに優しいヤツなんだけど、遅刻だけはやっちゃいけないんだ」

崇:
「そうそう、遅刻1分につき5分のお小言だもんな」

その事をよく知っているのか、そう言ってうんうんと深く頷く崇。

智之:
「てな訳でオレはもう行くわ。…あ、そうだ」

崇&秋穂:
「?」

智之:
「そういや…崇とアッキーはこれからどうするんだ?」

崇&秋穂:
「あ…」

全然考えてなかった、という顔になる2人。

智之:
「…一緒に来るか?」

崇:
「いや、それは遠慮しとく。久々のデートなんだ、2人で楽しんできてくれ」

秋穂:
「そうですよ〜、わたしだってそこまでヤボじゃないでよぅ」

崇:
「う〜ん、そうだな。それじゃアッキー、2人でどっか行くか?」

秋穂:
「あ、は〜い。お供させていただきますぅ」

智之:
「…そっか。じゃあ悪ぃけどオレはもう行くわ」

崇:
「おう」

秋穂:
「楽しんできて下さいね〜」

智之は2人の言葉に笑顔で答えると、くるりと身体を反転。
そしてダッ!と一気に街の方向へ駆け出す。

秋穂:
「うわ、早い…」

崇:
「それだけ会いたいんだろ」

秋穂:
「う〜ん、愛ですねえ」

崇:
「お、言うねえ」

秋穂:
「にゃははは〜」

崇:
「さて、それじゃあオレ達も行くか」

秋穂:
「はいっ!」

こうして2人も智之が走り去って行った方向へ歩き出す。
そして場面は変わり、智之が彼女との待ち合わせ場所である駅前に着いた、というシーンに。


・駅前周辺は土曜ということもあり、かなりの人通りがある。
そんな状況の中、駅の正面には少し息を切らした様子の智之の姿が。

智之:
「ふう、何とか間に合った…」

街中にある大きな時計を見ながらそう言い、安堵の表情を浮かべる智之。
その直後、駅の改札口から1人の女の子が現れ、智之の方に向かって歩いてくる。

智之:
「ちさと…」

つぶやくように彼女の名前を口に出す智之。
するとその声が聞こえたかのようなタイミングで、ちさとが智之に向かって軽く手を振る。

智之:
「…マジでギリギリだったな」

そう言いながら手を振り返す智之。
一見、平然とした様子でいるが、表情は「あ〜、危なかった」といったカンジ。
そして2人はお互いの声が聞こえる距離まで近付き合う。

ちさと:
「やっほ〜、遊びに来たよ〜」

ひらひらとてを振りながらそう言い、ニコッと笑いかけるちさと。
それまでとてもおとなしく、どちらかというと大人っぽい印象を与えそうな感じだったが、ここに来てがらりと雰囲気が変わる。

智之:
「おう、久し振り」

ちさと:
「ね〜、ホントだよ〜。…どう?会えなくて寂しかった?」

智之:
「…まあそれなりに」

ちさと:
「ふ〜ん、『それなり』かぁ。ふ〜ん」

意味深な言い方をするちさと。
その表情は含み笑いをしているようにも、どこか楽しんでいるようにも見える。

智之:
「何だよ、メチャクチャ寂しい、じゃなくて不満か?

ちさと:
「べ〜つに〜」

智之:
「…ったく、こっちはチサに会うために大変な思いをしてきたってのに…」

ちさと:
「え?なになに?どうしたの?」

智之の言葉にピクリと反応、すぐさま理由を聞いてくるちさと。

智之:
「ええっと、元々はオレが悪いっちゃ悪いんだけど…」

ちさと:
「うんうん」

こうして智之は今日ここに来るまでの経緯をちさとに話し始める。
ここで場面転換、智之が説明をあらかた終えた、というシーンに変わる。


ちさと:
「へ〜、じゃあすごく大変だったんだ」

智之:
「おうよ」

ちさと:
「…」

智之:
「?」

しばしの間、無言になるちさと。
そしてそれまでとは少し違う、楽しさよりも優しさを全面に出した穏やかな笑顔を見せる。

ちさと:
「ありがと、そこまでして今日の約束を守ってくれて」

智之:
「…ん」

コクリと頷き、短い言葉で返事をする智之。
その反応を見たちさとは満足そうな表情を見せ、そしてすぐにそれまでの明るさいっぱいの笑顔に戻る。

ちさと:
「う〜ん、崇クンと秋穂ちゃん…だったよね?会ってしっかりお礼を言わないといけないなあ。…あ、もちろんお礼を抜きにしても会いたいよ?特に秋穂ちゃんには会ったことないからね」

智之:
「もしかしたらどこかで会えるかもな。2人も街で遊ぶ、って言ってたし」

ちさと:
「そうなんだ。会えるといいな〜」

そう言って楽しそうに駅前の人だかりを見るちさと。

智之:
「よし、せっかく大変な思いをして来たってのに、ここで喋ってるのはもったいないな。オレ達も早く遊びに行こうぜ?」

ちさと:
「うんっ!」

大きく頷き、ちさとは智之の隣にぴたりと並ぶ。
そして2人は合図もなしに同時に歩き出し、楽しそうに会話をしながらデートを開始する。


・ここから場面は智之とちさとのデートシーンに入る。
展開は先の罠を突破する下山シーン同様、ダイジェストで次々と異なる場面、シーンが流れる。
ちなみにこの時、別行動を取っている崇と秋穂の状況も合間に入る。

まず2人が向かったのは服とアクセサリーの店。
お互い、相手が似合うと思ったものを選び、試着を楽しむ。

そして次はオープンカフェで食事。
頼んだのは智之がパスタで、ちさとがピザ。
智之が美味しそうにパスタを食べていると、そこにちさとが自分のピザを一切れ取って食べさせる。
この時、ちさとは「はい、あ〜ん」と言って智之の口に直接入れようとするが、智之が恥ずかしがり、なかなか口を開かない。
が、その後も執拗に「はい、あ〜ん」を繰り返すちさとに負け、結局ピザを食べさせてもらう智之。

…と、この時2人が座っているテーブルの奥に矢印がピコピコと点滅。
そこには偶然同じ店で食事をしていた崇&秋穂の姿があり、2人の食事風景を見ている。
ちなみに秋穂は「うわ〜、ラブラブだあ」や「…いいなあ」といった言葉を繰り返し、赤面しながら2人の様子を凝視。
一方の崇は「見てるほうが恥ずかしいっての」と言いながらコーヒーを飲んでいる。
結局ここでは崇達が気を遣って見つからないようにしたため、2組が会うことはなく、そのまま次の場面へ。

続いて食事の後に智之達が向かったのはボーリング。
2人とも腕前に自信があるのか、ガチンコで勝負を始める。
勝負はどちらも譲らない白熱した展開になるが、最後は智之が何とか逃げ切って勝利を収める。
ゲーム終了後、「惜しかったなあ〜」と残念がるちさとに対し、予想外の苦戦を強いられた智之は「今度練習しないとな…」とやや真剣モード。

ここで場面は一旦智之達から崇と秋穂の様子に変わる。
場所はバッティングセンター、そこで秋穂が速球を次々ヒットにしている。
秋穂は球が投げられてくる度に「私にはっ」、「部活があるもん!」と言いながらバットを振っている。
崇はそのバッティングの様子を「強くなれ、アッキー」といった感じの顔で頷きながら見ている。

その後、ペットショップで子犬と戯れたり、路上ライブをしているバンドの演奏を聞いたり…と、デートを満喫する智之とちさと。
一方の崇&秋穂ペアはと言うと、拗ねた顔で巨大なアイスクリームを舐めている秋穂を崇が「よしよし」とあやしている画が流れる。

やがて時間も過ぎ、そろそろお別れとなった所で、2人は公園のベンチでゆっくり話をすることに。

ちさと:
「ん〜、今日は遊んだね〜」

智之:
「そうだな」

ちさと:
「どう?補習を抜け出してきたリスク以上に楽しめた?」

智之:
「そりゃあもちろん」

ちさと:
「よかった。…でもあんまりサボっちゃダメだよ?
事前に言ってくれれば、会う日をずらすことくらい出来るんだから…」

智之:
「了解」

ちさと:
「…っていうかそれ以前に補習を受けるようなコトをしなきゃいいんだよ」

智之:
「うっ」

ちさとのごもっともな意見に固まってしまう智之。
するとその様子を見たちさとがクスクスと笑い出す。

ちさと:
「ははは。な〜んてね。…ま、智之は直感で動く人だし、それがいい所でもあるんだから」

智之:
「む、何か褒められてない感じ」

ちさと:
「そんなことないって。ホントにそう思ってるてば〜」

わざと拗ねた口調になる智之に対し、ちさとはそう言って少し首を傾げ「ホントだよ?」と言わんばかりの目で見つめてくる。

智之:
「…う、可愛い…」

ちさと:
「ええ〜、そういう言葉、普通口に出して言うかな〜?」

智之の言葉が予想外だったのか、そう言って恥ずかしがるちさと。

智之:
「ま、直感で動く人っスから」

今さっき言われたセリフを使い、反論する智之。
これにはちさとも何も言い返せない。

智之:
「…で、これも直感、と」

そう言って智之はいきなりちさとに顔を近づける。

ちさと:
「え、ちょ、ちょっと?」

智之:
「…ん」

ちさと:
「ん、んん…っ」

こうして智之の不意打ちとも言えるキスが炸裂。
始めは少し驚いていたちさとも次の瞬間には「もう、仕方ないなあ」という表情で智之の行為に甘んじる。
そしてしばらくキスを続けた後、ゆっくりと唇を離す2人。

ちさと:
「んっ…と。ハイお終い」

智之:
「え、もう?」

ちさと:
「『え、もう?』じゃないわよ、今までで一番長い時間してたじゃない」

頬を赤らませながらそう言い、ぷいっとそっぽを向くちさと。

智之:
「残念。…では続きはまた後日、ということで」

ちさと:
「…そうね」

智之:
「やった〜」

ちさと:
「もう…何そんなに喜んでるのよ」

照れ隠しがバレバレのちさと。
しかし智之はあえて何も言わず、ニコリと微笑む。

智之:
「…さて、と。そろそろ時間だねえ」

ちさと:
「あ、もうこんな時間」

時刻をチラッと確認するちさと。その顔はどこか寂しげ。

智之:
「それじゃ駅まで送るよ…って、あれ?」

ちさと:
「?」

どうしたの?という顔で智之を見るちさと。
すると智之の視線の先、2人のはるか前方に崇と秋穂の姿が。

智之:
「崇とアッキーだ」

ちさと:
「えっ、ホント?」

智之:
「そういやチサ、2人に会いたがってたな。…よし、行こう!」

ちさと:
「うんっ」

そう言って座っていたベンチを勢いよく立ち上がり、2人の元へ走り出す智之と秋穂。
その後すぐに合流、4人でのお喋りが始まる。
最初にちさとが崇と秋穂に挨拶&お礼を言い、そこから軽く談笑。
ちさとは終始「秋穂ちゃんカワイイ〜」を連呼し、その度に秋穂を真っ赤にさせる。
だがそれも長くは続かず、もうすぐ帰りの電車が来てしまう、という事で4人は駅へと向かう。


・場面は待ち合わせをしていた駅の正面、そこに4人が立っている、という状況。

智之:
「…それじゃまたな」

ちさと:
「うん」

ちさとはそう言って智之に微笑み、続いて崇と秋穂に顔を向ける。

ちさと:
「崇、秋穂ちゃん、今度はみんなで遊ぼうね」

崇:
「おう」

秋穂:
「はいっ、楽しみにしてます!」

前々から面識があるため、シンプルに挨拶を済ませる崇とちさと。
一方、今日が初見ではあるものの、早くも打ち解けた様子の秋穂とはすでに仲良し、といった感じのやり取りをする。

ちさと:
「今度は智之達の学園に行ってみたいな。…その時は今日のみんなみたいに山を登って行くよ」

智之:
「…冗談だとは思うが言っておく。やめとけ」

ちさと:
「あはは。やっぱり?」

崇&秋穂:
「…」

2人の楽しそうなやり取りを穏やかな笑顔で見ている崇と秋穂。
と、ここで時間が無い事に気付いた崇が口を開く。

崇:
「おっと、もう時間だ。そろそろホームに向かわないとマズいぞ」

ちさと:
「あ、いっけない」

そう言ってちさとは少々慌てながらも、3人に向かって別れの挨拶をする。

ちさと:
「ゴメン、ちょっとバタバタしちゃってるど、もう行かなきゃ」

智之:
「ああ、気をつけてな」

ちさと:
「…智之、今日は楽しかったよ」

智之:
「オレもだ」

ちさと:
「…」

智之の言葉を聞き、今日一番の笑顔を見せるちさと。
そして昼間に会った時のように手をひらひら振り、駅の改札口へと消えていく。

智之:
「…さ、オレ達も帰ろうぜ」

ちさとの姿が見えなくなったところで智之はそう言い、崇と秋穂の方を向く。

崇:
「そうだな、さっさと学園に戻るか」

秋穂:
「ええっと…、今ならまだバスがありますね」

智之:
「そりゃよかった。さすがに今から山を登って帰るのはキビシイからな」

崇:
「キビシイと言えば…。補習サボリ、これも相当キビシイんじゃないか?」

智之:
「ははは…」

崇の言葉に乾いた笑い声を上げる智之。

智之:
「はあ、考えたくねえなあ…」

秋穂:
「あ、ヘコんでる」

崇:
「それを覚悟の上でちさとちゃんと会うことにしたんだろ?今更遅いって」

智之:
「…確かに。悩んでも仕方ねえ、出たトコ勝負だ!」

崇:
「その意気その意気」

秋穂:
「やっぱりセンパイはそうじゃないと」

智之:
「よ〜し、行こう!そして怒られよう!」

そう言って1人歩き出す智之。
その後を「やれやれ」といった顔で追う崇と、「ははは…」と笑いながら付いてくる秋穂。

崇:
「怒られるのはトモ1人だけどな」

智之:
「え〜、せっかくだから一緒に怒られようぜ〜?」

崇:
「嫌に決まってるだろ、オレはそこまで無駄に冒険野郎じゃねえよ」

智之:
「何だよ〜、そんなコト言わないでオレと一緒に冒険しようぜ〜」

崇:
「断る!」

智之:
「じゃあ…、アッキー!」

秋穂:
「えええ〜!?わたしですか〜?」

崇:
「やめい!」

そんなやり取りをしながら3人は夕日で赤く染まった街を歩く。
そして最後に智之の心境セリフが入って物語終了。

智之:(心境セリフ)
…こうしてオレは今日一日、素晴らしい仲間と、素晴らしい時間を過ごすことが出来た。

…ただ、彼女に会いたい。
理由は、それだけ。
本当に、会いたいと思った。
本当に、ちさとが好きだから。
…ただ、それだけ。

でも、それで十分だと思う。
今のオレにはそれが何より大事で、そしてそれを判ってくれたから、2人の仲間が一緒に来てくれた。

この、何もしていなければ普通の土曜だった今日。
それが、こんなにも素晴らしくて、1つの事に一生懸命になれて、目的を達成出来た日になった。

崇。
アッキー。
そして、ちさと。

あらためて、みんなにありがとう。

…さあ、この素晴らしさを。この達成感を。

…次は、キミだ。


                                 「脱走!ウイークエンド」 END






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