「CROSS † RECALL」

あらすじ

国やその他の支配を一切受けず、神の道を説いて民を救うことを目的とする「教会」に籍を置く主人公。その神学に対する熱心さと信心深さは他を圧倒し、神官騎士として多くの民から信頼されていた。しかし教会の根幹である「中央協会」は内部腐食が進み、本来の道を踏み外して金策や支配欲、権力に執着する醜いものになっていた。その風潮は教会本部がある王都をも飲み込み、国王も絶大な力を持つようになった教会に手出しが出来ない状態。表向きはまっとうなことを行っているのだが、民の前に姿を見せる「表の人間」に権限の類はなく、ただのカモフラージュにしかなれていない…。そんな現状に憤慨、反乱を計画・活動していた主人公だが、教会側の汚い策略によって活動を妨げられ、大切な仲間を失い、自身は辺境の地に飛ばされてしまう。

物語はその辺境の地への出発の日、同期で仲のよかったシスターに別れを告げ、主人公が1人王国を去るところから始まる。派遣先は山奥で人の出入りもあまりない、厳しい気候の無名の町。赴任した当初はこの辺境の地が気に入らず、また教会上層部への復讐の想いが大きかった主人公だが、この地に暮らす民の心の温かさに触れ、聖職者本来の役目を思い出す。次第に元の温和で信心深い青年に戻っていく主人公に、町の民らかも信頼されるようになる。

そうしてしばらくの時が過ぎ、この町を心から愛するようになった主人公の元にある日、各地を回って歩く教会の使いが現れ、中央からの伝達文を主人公に届ける。その内容とはこの町からの早急な撤回、以降教会はこの町との関係を切る、というもの。当然使いの者に理由を尋ねるが、低位の使いに答えられるわけもなく、ただ知らないと言われるだけ。不思議に思う主人公、すると時同じくして懇意だったシスターが主人公の元を訪れてくる。シスターは主人公が使いの者から一連の伝達を聞いたことを知ると、この強制退去に隠された本当の意味を主人公に教える。その理由とは、この町の近郊には手付かずの巨大宝石鉱脈があり、この一帯を教会本部が強制的に支配するため、というもの。さらにこの町だけでなく、近隣の住人や教会に反抗した者などに強制労働を強い、教会の財源を増やそうとしている、という話を聞いた主人公は激昂し、この街と民を救うため、単身戦いを挑むことを決意する。

実はこの主人公、神官騎士の肩書きは伊達ではなく、剣術にも法術にも長けた強者で、中央にいた頃は神官警備隊の隊長を務めた程。常に携帯している十字架に気を込め、聖光の剣を造り出すことが出来る「神剣士」である主人公。懇意であるシスターも愛用の聖書を媒体にし、自分の霊気を具現化出来る「聖使徒」という肩書きを持っており、彼女も主人公に賛同、共に戦い、腐食した教会を正しき道に戻そうと町に住むことになる。

その後、2人は教会が雇った盗賊団(シスターが襲撃の情報をキャッチ)を迎撃、これを機に2人は町の民に真実を告げる。あまりにも危険なため、出来れば遠くへ逃げるよう伝える主人公。しかしその意に反し、住民の大半はこの地に残り、主人公と共に戦うと言う。こうして主人公は勇気ある住民達を従え、教会に反旗を翻す。

この盗賊団撃破後、協会側は主人公達を潰そうと、殺し屋や制圧部隊を次々と仕向けてくる。しかし味方の見事な団結力と、神官騎士の団長を勤めた主人公、魔法・法術のエキスパートであるシスターの活躍によって打ち勝っていく。さらに戦いを続けていく間に、昔からの仲間・友人の参戦やバックアップも加わり、戦力を増強させる主人公達。それに対し、事を表立たせたくない協会側は多種多様な攻め方、卑劣極まりない手段を織り交ぜて主人公達を苦しめる。

多くの関門、辛い選択、熾烈を極める戦いの中、それらの困難に打ち勝つだけの頼もしい味方を仲間にし、腐りきった教会を倒そうとする主人公。その活動は次第に多くの民に知られるようになり、賛同を得る。やがて教会に対して弱腰だった国も主人公達の側に付き、国王自らが剣を取り、共に戦うことに。そして迎えた王都にある教会本部での最終決戦、なりふり構わずやっきになり、総力戦を仕掛けてくる教会側との全面戦争に見事勝利し、主人公と仲間達は教会を本来あるべき姿に戻す…というのがおおまかなストーリー。物語の最後は教会の再建に燃える主人公と、仲間達のその後の様子が語られ、ハッピーエンドとなります。





登場人物紹介

 マルス=ヴァルベイン 通称ヴァル
本作の主人公。神学の知識・信仰に長け、武術の心得も持ち合わせていないといけない「神官騎士」の団長を勤めたこともある非常に優秀な聖職者。
美しい銀髪に丹精な顔付き、そして澄んだ青色の眼が印象的。長身で均整の取れた身体の持ち主で、華奢な感じは一切ない。
性格は常に冷静沈着…と見られがちだが、実はかなりの熱血漢。曲がったこと、汚いことが大嫌いで、そういった局面に遭遇した時は感情を露にして立ち向かう。ちなみに普段は至って温厚、涼しい笑顔でいることがほとんどである。
剣術の腕前はかなりのもので、神官騎士の中でもトップクラス。戦闘時は常に胸元に忍ばせている十字架に霊力を注ぎ込み、霊剣を造り出して戦う。魔法や法術の知識も持っており、剣術と多系統の術を織り交ぜた戦闘スタイルを取ることも多い。
ルックスは抜群、性格も良く、さらに文武両道…と、まさに完璧と思われる彼だが、唯一苦手とするのが酒。コップ一杯で真っ赤になるほど弱く、酔うと普段の大人びた言葉遣いが一転し、少年のような口調になってしまう。

 シャルドネ=エルフレイア 通称エル
王都にある大教会に仕えるシスター。ヴァルとは神官学校時代からの知り合いで、誰よりも信頼出来る仲。ヴァルに負けず劣らずの優秀な聖職者で、「聖使徒」という霊気を扱うスペシャリストでもある。
艶のある濃紺の髪に凛とした表情が映える美人で、清楚や可憐といった言葉が似合う。綺麗な肌と健康的な肉体美を兼ね備えており、彼女目的で教会に足を運ぶ者も多い。
性格はとても優しく、物腰も非常に柔らかい。同時にかなりの努力家でもあり、芯の通った強さも持っている。また、時折見せる無邪気な部分も大きな魅力で、満天の笑顔は彼女の唱える回復魔法以上の効果を与えることも。
戦闘時は愛用の聖書を媒介に自分の霊気を具現化、状況に応じて様々な物に姿を変えて戦う。強力な攻撃技も使えるが、基本は敵の動きに制約を与えたり無力化させるものがメイン。さらに味方の守りや攻撃補助を目的とする術・技にも熟知し、戦闘において彼女の役割はとても大きい。

 アテム=ランカスター 通称アテム
元神官騎士の神父。ヴァルとは神官騎士の同期で、多くの行動を共にしてきた親友。何代も続く聖職者の家系に生まれ、現在は故郷の教会を継いで神父をしている。
性格はおとなしく、あまり目立たない。しかし持ち前の優しさと細かい気配りで、周囲からの信頼は厚く、肝心な時は場をピシッとまとめることが出来る人格者。
元神官騎士なだけあって、武器の扱いはとても上手い。反面、法術関連はそれほど得意ではないのだが、多種多様な武器を使いこなすことでカバーしている。
ちなみに王都での反乱運動では中心メンバーとして動いていたが、両親の身の危険を引き合いに出す上層部の脅迫に屈し、ヴァルの元を去ったという過去を持つ。そのため非常に負い目を感じており、今回の反乱では何としてでも役に立とうと思っている。

 エドガー=ウエイクフィールド 通称エド
現協会近衛団隊長。ヴァルが神官騎士団長だった頃の部下で、よく面倒を見てくれたヴァルのことを今でも慕っている恩義に厚い青年。
性格はヴァルを凌ぐ熱血漢で、根性や気合といった言葉が大好きな完全な体育会系。騎士道を重んじた行動・振る舞いを取ろうと心がけているが、頭に血が昇ると歯止めが利かなくなり、暴走することも多い。
頼れるのは己の剣のみ、が信条なだけあって、剣での戦いに絶対の自信を持っている。実際、剣の腕前は見事なもので、王都では敵なしと言われている。

 サミュエル=ガレアス 通称ガレアス
貴族階級を相手にする神官で、親は王都でも指折りの権力者。昔は典型的な嫌味なエリートだったのだが、ヴァルと出会ったことにより改心。王都での反乱にも手を貸そうとしたのだが、彼の行動は全て親にばれており、結果的にヴァル達の反乱を失敗に終わらせてしまう。そのため、アテム同様、単なる賛同だけでなく、過去の罪滅ぼしの意味を兼ねてヴァルの味方に付く。
戦闘には一切参加せず、教会側の情報をいち早く知らせる役目を買って出る彼。現在の職務と家柄の問題で王都を離れることが出来ないが、辺境の地にいるヴァル達にとってはかなり頼れる存在。資金や物資の調達も私財を投じて行ってくれる。

 マーク=グレック 通称マーク
ヴァルが赴任する町、ティフィルトの自警団をまとめる男。初めは余所者のヴァルをよく思っていなかったのだが、彼の持つ情熱や性格を知ってからは尊敬にも似た感情で接するようになる。
本業は木こりで、凄まじい腕力と屈強な肉体を持つ。精神的にもタフで、多少の傷を負ったくらいでは全くひるまない。
実戦経験は皆無だが、大斧を振り回しての戦闘スタイルはかなり強力。周辺の地形を知り尽くしており、気象の変化にも敏感なため、町を中心とした戦いでは非常に頼もしい存在である。

 サラ=ブラックマリア 通称サラ
教会直属の殺し屋。まだ若いが殺しの腕前は確かで、裏の世界ではかなりの有名人。始めは敵として対峙するが、ヴァルとの対決に負け、その時に聞いた彼の熱い想いや仲間達の心意気に感銘し、以後味方となる。
普段はほとんど感情を表に出さないが、本当は感情豊かな女の子。仲間になった後は次第に本来の性格を取り戻し、自分から積極的にコミュニティを取るようになる。ちなみに見た目は「超」が付くほどの美少女で、大きな瞳が特徴。
漆黒のマントに全身を包み、隠し持った様々な暗器で攻撃するのが彼女の戦闘スタイル。そのため、メインの活動は偵察や奇襲、情報収集や霍乱といったものが多い。

 アルボルト=エリック9世 
教会本部がある王都を治める若き国王。前代の王が教会の言いなりになっているのを幼い頃から見ており、自分が王位に着いた時は威厳と誇りを持ち、堂々と接しようと思っていた。だが実際に王になってみると、教会の圧倒的な力に屈し、結局それまでの王と同じ状態に。それでも彼は誇りを捨てる事無く、王子時代からの目標をいつか達成しようと考えていた。
そんな中、ヴァル達の反乱を耳にした彼は独自に調査を開始。共に戦うべき同志である、という結論に達し、すぐさまヴァルと同盟を組んで教会を倒そうと邁進する。
性格は王族にしては珍しく素直で謙虚。民のことを何より大事に考える立派な王で、忠実な家臣と共に国政に励んでいる。当然民衆の人気も高く、絶大な支持を受けている。
幼い頃から剣術を習い、また素質もあったため、剣の腕前はなかなかのもの。戦いではヴァルと共に前線で戦ったりと、戦力としても存分に活躍する。





 
 「CROSS † RECALL」第1話

―場面は王都の外れ、城門前から展開。季節は冬の始めで、曇った空の下、寒々しい風が吹いている中、門の前で主人公ヴァルとヒロインのエルが神妙な面持ちで向き合っている。

ヴァル「それじゃあ僕はもう行くよ。…見送り、ありがとう」
エル 「…うん、気をつけてね。それと…」
ヴァル「それと?」
エル 「…今回の事、ヴァルは絶対間違ってなかった。だからお願い、1人で全てを抱え込もうとしないで」
ヴァル「…わかった。ありがとう、エル」
エル 「…うんっ」
(2人はそれだけ言うと、お互い軽く頷き、全てを理解したような顔で見つめ合う。
 そしてヴァルは視線を遠くの山に移し、そのまま歩き出す)

ヴァル「…ん?」
(城門が見えなくなった辺りまで進んだヴァルの視界に雪が。立ち止まって空を見上げると、無数の雪が舞い降りてくる)
ヴァル「…雪、か」

―ここで場面は空を見上げるヴァルの姿を映し、続いて様々な場面の画がカットイン。ここでは明らかにはされないが、どれも王都での反乱活動時の出来事で、ヴァルにとっては辛いものばかり。ちなみにその画の中にはエルを始め、以降登場する仲間の姿も混じっている。

ヴァル(心境セリフ)
 …僕の名前はマルス=ヴァルベイン、この世界において大きな権限と力を持つ「教会」に籍を置く神官騎士だ。
 『全ては民のため、全ての民の幸せが聖職者の幸せ』…これが教会の活動理念であり、僕たち聖職者の指針でもある。僕はこの言葉を信じ、神に仕え、今まで生きてきた。
 しかし…

―ここで一旦セリフが止まり、空を仰いでいたヴァルが再び歩き出す。そして心境セリフ再開。

ヴァル(心境セリフ)
 …教会設立から数百年、時の経過と共に教会本来の役割、活動の根幹にあった奉仕の心は薄れ、上層部は腐食しきってしまった。怠惰を極め、考えるのは己の保身と教会内での権力のみ…。この事実を目の当たりにした僕は、教会をあるべき姿に戻そうと同士を募り、反乱を企てた。同じ想いを持つ者は多く、あのまま活動を続けていれば十分な勢力を持つ集団に成り得ただろう。
 
―ここで再び反乱活動時の画がフラッシュバック。ヴァルの叫んでいる姿や、涙を流しているシーンが次々と流れる。そして再度心境セリフへ。

ヴァル(心境セリフ)
…だが、そうなる前に僕たちの活動は教会側にばれてしまい、様々な妨害や汚い策略によって活動は鎮圧。多くの犠牲を払い、活動の中心人物として動いていた僕は辺境の町へと飛ばされることになった。
 定期的な移動、という名の隔離。それは元神官騎士長として働いていた僕に対し、処分を表沙汰に出来ない教会側が取った最良の選択だろう。僕が赴任を命じられたティフィルトという町はそれ程までに王都から遠く、また気候の厳しい寂れた町だった。

―ここで画面は1人で歩き続けるヴァルの姿が展開。そしてしばらくした後暗転、場面はティフィルトの町にある小さな教会の前にヴァルが立っているところに変わる。
町は雪が積もっており、厚い雲に覆われて薄暗い。さらに強い風が絶えず吹いていて、かなり寂しげ。教会も古く、長い間放置されていた感じ。

ヴァル「…」
(無言で教会の扉を開け、中へと入るヴァル。教会は簡素な長いすがいくつか並び、奥には小さい祭壇が祭られている、というシンプルな構造。ヴァルはそんな教会内部を軽く見渡した後、そのまま祭壇の前まで進み、すっと膝を付いて祈りを捧げる)

―目を閉じ、真剣な表情で祈るヴァル。この時、声は聞き取れないものの、ヴァルは祈りの言葉を唱えており、常に口元が微妙に動いている。
 そしてしばらくした後、詠唱終了。続いてそのままの体制で心境セリフが入る。

ヴァル(心境セリフ)
 …僕のやってきたことは間違いではない、1番の理解者であるエルはそう言ってくれた。彼女の言葉は気休めでなく、本心からのものだろう。
 しかし、それはあくまでもエル個人の意見。活動を共にした他の仲間達の中には当然僕に対する非難の声もあるだろうし、恨んでいる人間だっているはずだ。

―ここでヴァルは眉間にしわを寄せ、悔しさと申し訳なさが混じったような顔になる。

ヴァル(心境セリフ)
 …聖職者に憧れ、教会の門を叩いて今年で10年。その間僕は神学を学び、剣術の修行に励み、念願の神官騎士になった。
 そして僕は神の教えを説くために各地を廻り、貧しさにあえいでいる人達を救い、時には神の名の元に剣を振るい、聖職者の名に恥じぬよう生きてきた。
結果、僕は神官騎士団長という大役を任されるようになり、1人でも多くの人の役に立てるよう、それまで以上に頑張ってきた。
…だが、それも先の反乱活動で「教会上層部にたてついた異端者」のレッテルを貼られ、こうして辺境の地へ飛ばされてしまった。
別に自分の経歴に傷が付こうが、どんな処罰・冷遇を受けても構わない。ただ、行動を共にしてきた仲間達、そして教会に救いの手を求める多くの人達に対して、申し訳ない気持ちで一杯だった。

―ここでヴァルは両手をギュッと握り直し、より一層真剣な表情に変わる。

…せめて僕に彼らを守るだけの力があれば…
…主よ、私は無力でした。その力なき私に変わり、どうか皆をお救い下さい…
どうか、皆を…

―切実に祈るヴァル。その後、背景が次第に黒く染まっていき、最終的に暗闇の中で1人ポツンと跪いているヴァルの画に変わる。
 と、ここで暗闇にいるヴァルを呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。

マーク「…神官、なあ神官ってばよ!」
ヴァル「…え?」

―ここで場面は暗闇から現実世界に戻る。 
実は冒頭からのシーンは全てヴァルの回想で、実際はティフィルトの町に赴任して1年近くが経過している、というもの。
状況的には祭壇に向かって祈りを捧げているうちに過去を思い出し、ずっと回想を続けていた…という感じ。初めてヴァルがティフィルトの町を訪れた時に捧げた祈りのシーンと、それから約1年後となる現在の定期的な祈りを重ねることで、2重の回想シーンから一気に時間軸を現在に戻すことが目的。
 ちなみにこの時、ヴァルは状況が掴めておらず、キョトンとした顔になっている。

マーク「珍しいな、神官が話しかけられても気付かないなんて」
ヴァル「…す、すまないマーク。ちょっと昔のことを思い出していて…」
(と、ここでヴァルは自分の置かれた状況を把握し、マークの問いかけに多少どもりながらも言葉を返す。そして膝を付いた状態から立ち上がりつつ、心境セリフが入る)

ヴァル(心境セリフ)
 …そうか、僕は祈りの途中だったんだ。
…それにしても、どうして今になって昔のこと、初めてここに来た時のことを考えていたんだろう?

マーク「昔のこと、か…。これまたアンタにしては珍しいんじゃないか、神官?」
ヴァル「そうだね、確かに昔のことを思い出す、なんて最近なかったからね」
(ヴァルの返答を聞き、マークはここで少し真剣な顔になる)
マーク「…神官、やっぱりアンタ、まだ昔のことを気にしてるんじゃ…」
ヴァル「…どうだろう、気にしていない、と言えば嘘になるけど、もうあれから結構な時間が経っているからね。この町に来て間もない頃に秘めていた悲壮感みたいなものはかなり薄まったよ」
マーク「そうか…」
ヴァル「でも、決して忘れたいとは思わないし、忘れたくないことなのも事実。…もしかして今思い出したのは、やっとあの問題に対して冷静に向き合えるようになったから、なのかもね」
(そう言って穏やかな笑みを浮かべるヴァル。その様子を見たマークはホッと息を吐き、安心したような顔になる)
マーク「神官、アンタはエライよ。…初めて会った時はいけすかねえヤツだと思ってたが、今はアンタのことを尊敬してるぜ?」
ヴァル「ありがとう、マーク」
マーク「いや、オイラだけじゃねえさ。町のみんなも同じだ、神官みたいなイイヤツが異端者な訳がねえ。アンタは本当の聖職者だ」
ヴァル「はは、それはいくら何でも褒めすぎだよ」

―マークの言葉に笑いながらそう答え、ヴァルは窓辺へと歩き出す。窓は通りに面した方向にあり、町の様子が見渡せるようになっている。
 
ヴァル「…」
(ヴァルはそのまま窓の前に立ち、ぼんやりと外の様子を眺める。その視線の先には何もなく、どこか違う遠い場所を見ている感じ。そして心境セリフが入る)

ヴァル(心境セリフ)
…尊敬、か。今の僕にはもったいない言葉だな。 
 (ここでヴァルはやや自嘲気味にフッと笑い、軽く数回首を横に振る)

ヴァル(心境セリフ)
 …本当にこの町のみんなはいい人ばかり、僕はどれだけこの町の人に助けられたのだろう。
 そう、それは赴任して間もない頃、まだ僕が教会への怒りを静めることが出来ず、胸の中に復讐の想いをくすぶらせていた時だった。
 エルの前では格好を付け、もう気にしていない、なんてことを言ったけど、本心はそこまで踏ん切りが付いていなかった。出来れば自分1人で再び行動を起こし、理想を叫びながら華々しく散ろうとまで思っていた。
 そんな思いを秘めたまま訪れたこのティフィルトの町。初めて訪れた時に抱いた印象はかなりひどいもので、どうしてこんな辺境の地に…と、心中穏やかでない日々がしばらく続いた程。移動自体が突然の命令であったことも大きな要因ではあるが、それ以上にこの小さく寂れた町が大嫌いだった。

―ここでヴァルは窓から見える町の様子に目を向け、通りの向こうにある小さな広場や露店の前にいる町の人達を優しい目で見つめる。そして心境セリフ再開。

ヴァル(心境セリフ)
 …暗く、寒く、そして陰険な空気に包まれた町。それが赴任当初の僕がティフィルトの町に対して抱いた印象。そのため、僕はあまりこの町に住む人達と交流を持とうとしなかった。頭の中ではまだ怒りと後悔の念が渦巻いていたし、町の人もいきなり赴任してきた神官に心を許そうとはしなかった。
 特に今僕の目の前にいるマークに至っては、僕を「田舎を馬鹿にする王都の貴族」と決めつけ、あからさまな嫌がらせや暴言を吐いては、事あるごとに突っかかってきたものだ。
 しかし、そんな小競り合いを続けている内にお互い打ち解け、今ではこうして毎日のように教会へ雑談をしに来るようになった。
…些細な誤解と偏見、一方的な決め付け…。双方にあった障害を一度取り除いてしまえば、後はもう一気に町中の人と親しい関係を築くことが出来た。
それは最初に打ち解けたマークが町のリーダー的存在であったこと、そしてそのマークがみんなに僕のことを「信頼できる聖職者」と伝えたからでもあるが、何よりも町のみんながとても優しく、暖かい心を持った人達だった、ということが大きかった。
そして僕がこの町に来てから半年が過ぎようとする頃には、毎週大勢の人が教会に祈りを捧げに足を運ぶようになり、また僕の元に悩みや相談事を打ち明けに来てくれる人も多くなった。
…今ではもうすっかりこのティフィルトの町に溶け込み、ゆったりしながらも充実した日々を送っている。
いつの間にか僕はこの町を愛し、町に住む人達が大好きになっていた。それはとても素晴らしいことであり、赴任当初に漂わせていた悲壮感や内に秘めた復讐心はもうほとんど消えてなくなっていた。
…本当に町のみんなには感謝することがたくさんあるな…

―ここでヴァルは軽く目を閉じ、大きく息を吐く。そして「よしっ」と言わんばかりに気持ちを切り替え、ピシッとした真面目な顔になる。

マーク「…どうしたい、神官? 急に気合なんか入れちゃってよ」
ヴァル「ん? …まあマークに褒められたこともあるし、今日はいつもより一生懸命働こうかな、と思ってね」
マーク「お、燃えてるねえ」
(そう言ってマークは腰掛けていた長いすから立ち上がり、背筋を伸ばしたり首をコキコキと鳴らす)
マーク「よし、そんじゃあオイラも仕事に戻るか。…邪魔したな、神官」
ヴァル「いえいえ、またいつでも遊びに来てくださいな」
(ヴァルは笑顔でそう言うと、スッ…と右手をマークの前に掲げ、素早く小声で祈りの言葉を捧げ、今日一日の安全を祈る)
マーク「…ありがとさん。アンタに祈ってもらえれば安心して仕事が出来…」
(そこまで言ったところでマークは急に言葉を止め、窓の外を見つめる)
ヴァル「どうしたマーク?」
マーク「なあ神官、見慣れねえヤツがこっちに向かって来てるぜ?」
(ヴァルの問いにそう答え、アゴで窓の外を指すマーク。ヴァルが振り返ると、マークの言葉通り、広場の方から1人の男性がこちらに向かって歩いてきている。その男性は教会のマントを羽織っており、ヴァルを訪ねて来たであろうことが伺える)
ヴァル「本当だ、一体誰だろう? 見たところ知ってる顔ではなさそうだけど…」
(やや怪訝そうな表情を浮かべるヴァル。その横ではマークも神妙な面持ちで男性を見つめている)
マーク「まさかアンタの交代として派遣された、とかじゃないだろうな?」
ヴァル「いや、それはないよ。多分彼は『メッセンジャー』と言って、教会の書物・手紙を運ぶ役目に就いている人だと思う。確かあの革製のカバンはメッセンジャーにしか支給されないものだったハズだ」
マーク「そうか、じゃあアイツは神官に手紙を届けに来ただけか。…ったく、心配して損したぜ。アンタがいなくなったらどうしようか、とか考えちまったじゃねえか」
ヴァル「ははは、マークは気が早いなあ」
(そう言って軽く笑うヴァル。しかし目は全く笑っておらず、マークと話しながらも、視線はメッセンジャーの動きを全て捉えている。そして心境セリフへ)

ヴァル(心境セリフ)
 …よかった。歩き方や気配、どれも普通の人間のものだ。もしかしたら教会が仕向けた刺客かとも思ったが、どうやらその心配はなさそうだな。
 ただ…
(ここでヴァルは一旦言葉を区切り、真剣な表情を見せる。そして再度心境セリフへ)

ヴァル(心境セリフ)
 …どうして1年近く経ってから急に使いを出したんだろう? 今までこの町を離れたこともなければ、誰かが尋ねてきたこともないのに…
 祈りの途中で急に昔を思い出した事といい、何か嫌な予感がするな…

マーク「…それじゃあ神官、オイラはそのメッセンジャーとかいうヤツが来る前に行くぜ。どんなことになるかはまだ分からないが、部外者はいない方がいいだろう?」

―ヴァルの微妙な変化を察したのか、マークはそう言うと、クルリと後ろを向き、軽く手を振りながら教会から出て行く。

ヴァル「…すまない、マーク」
(マークの背中を見ながら呟くヴァル。その後、マークとメッセンジャーは教会の手前にある通りですれ違い、程なくしてメッセンジャーが教会の扉を叩く)

…コンコン
ヴァル「はい、開いていますのでそのままお入りになって下さい」
メッセンジャー「…」
(無言のまま扉を開くメッセンジャー。ここで初めて顔が明らかになるが、メッセンジャーは至って普通の中年男性。そして彼はオドオドしながらもヴァルの前に立ち、カバンから一通の手紙を取り出す)
メッセンジャー「あ、あの…、マルス=ヴァルベインさんですね? きょ、教会からの命令状をお持ちしました」
ヴァル「そうですか、遠いところをわざわざご苦労様でした」
メッセンジャー「い、いえ、そんな…」
(ヴァルのことを多少は知っているのか、メッセンジャーは緊張しながらヴァルの言葉に対応する)
ヴァル「それでは早速、その命令状を見せて頂けますか?」
メッセンジャー「ど、どうぞ」
(手紙を差し出すマッセンジャー。それをヴァルは丁寧に受け取り、頭を下げる)
ヴァル「ありがとうございます。内容によってはすぐに返事を書かなければなりませんので、少しここで待ってもらえますでしょうか?」
メッセンジャー「は、はい。わかりました」
(ヴァルはメッセンジャーが頷いたのを確認すると、素早く封を切り、中に入っていた手紙に目を通す)

ヴァル「…!」
(手紙を読み始めてすぐに表情が変わるヴァル。そして小刻みに手が震え、次の瞬間、手紙をテーブルに叩きつける)
メッセンジャー「ヒィッ!?」
(突然のことに驚くメッセンジャー。するとヴァルはそのままツカツカとメッセンジャーに近付き、かなり怒った様子で問いかける)
ヴァル「この手紙の発行人は?」
メッセンジャー「す、すいませんっ、私は全く知らされていないんです!」
ヴァル「では貴方がこの手紙を預かったのはいつですか?」
メッセンジャー「ええっと…、確か4日程前かと思います」
ヴァル「…4日前だって…?」
(メッセンジャーの言葉に愕然とするヴァル。そしてそのまま固まり、頭の中で事態を整理しようと考え込む。そして心境セリフへ)

ヴァル(心境セリフ)
 …今、僕が受け取った手紙、そこに書かれた内容は、僕を驚かせるのに十分すぎる程のものだった。
 『通告 マルス=ヴァルベイン殿 10の月を持って現在の任務を解き、王都への一時帰還を命ずる。なお、この書が届き次第、現在貴殿が就いている町での教会活動は一切禁止とし、以後ティフィルト地方への教会関知はしないものとする。
以上、貴殿は即刻町を立ち去り、新たな任務の命を受けるべく、王都教会本部まで来られたし。 王都教会 執行院』
…これが手紙の全内容。とてもじゃないが、正式な教会からの辞令とは思えないものだった。ぞんざいな文面、あまりに一方的な命令の数々、そして何よりおかしいのが任務終了の期限と、今後のティフィルトでの教会活動についてだった。
手紙では10の月いっぱいで今の任務から外されることになっているが、今日はもう11の月に入って2日も経っている。これは急な命令、なんてものじゃない。ここまで辞令発行まで猶予のない命令なんて有り得ない。普通、教会の事例は最低でも2週間前、普通は1ヶ月前から出されるものだ。メッセンジャーの話によると、この手紙は4日前に届けるよう渡された、とのこと。その時点で任務の残り期間はたった2日、そこに配送までの時間を考えれば、機関内に僕の元に届くなんてことは実質的に不可能である。
そしてティフィルトからの教会撤退。これも任務期日以上納得がいかないものだった。まるでこの町を見捨てるかのような決定は、どう考えても尋常ではない。通常、教会というのはどんな小さな町にも1つは施設を置き、その土地で起きた事件などの解決・事後のケアをしなければならない。それが一切の関知を行わない、というのは活動放棄以外の何者でもないだろう。

―場面は先程と変わらず、狼狽したメッセンジャーと深刻な顔で考え事をしているヴァルの画が展開。しかしヴァルの頭の中では、次第に命令状の意図を掴みつつあり、何かを探るように両目を動かしたり、指を額や口につけたり、考えをまとめるように頭をボリボリ掻いたりと忙しなく動く。そして再度心境セリフへ。

ヴァル(心境セリフ)
 …おかしい。僕の処分であれ程までに慎重な体制を取った上層部が、ここまであからさまに怪しい命令文を出すなんて…
これはやはり、僕を完全に消すために強硬派が動いた、と考えた方がいいかもしれない。この1年あまりの間に強硬派が主権を握った、という可能性はかなり高い。
もしそうだとしたら、すでに手が打たれている…?

―ここでヴァルは自分とティフィルトの町に危険が訪れていることを察し、カッと目を見開く。そしてそんなヴァルの様子に驚くメッセンジャーに対し、切羽詰った様子で話しかける。

ヴァル「貴方はすぐにこの町から出て行ったほうがいい。しかも帰りは大きな街道を使わず、出来るだけ王都から離れた場所でしばらく身を潜めるんだ」
メッセンジャー「は、はい?」
ヴァル「おそらく教会側は貴方を捨て駒にする気でいる。…僕を体よく始末するために利用されているに違いない」
メッセンジャー「え、ええっ!?」
(ヴァルの言葉を聞き、真っ青になるメッセンジャー。そしてガクガクと震えだし、助けを求めるような目でヴァルを見つめる)
メッセンジャー「そ、そんな…。わ、私はどうすれば!?」
ヴァル「…落ち着いて。今僕が言ったように、しばらく遠くで身を潜めるんだ。そして僕と会ったこと、手紙のこと、ティフィルトに来たことを秘密にする。…いいね?」
メッセンジャー「は、はいっ!」
ヴァル「さあ、早く行くんだ。教会側が仕向けた刺客に見つかるんじゃないぞ!」
メッセンジャー「ヒィィィッ!」
(叫び声を上げて走り去るメッセンジャー。ヴァルはその様子を窓越しから見つめ、無事を祈るように手を合わせる。祈りが終わると、ヴァルはスッと祭壇の前に移動し、胸元から十字架を取り出し、ギュッと握り締める。そして何かを決心したような顔になり、今度は祭壇に向かって祈りを捧げる)

―短い祈りの後、場面は決意に燃えるヴァルの顔を映し、続いて誓いにも似たセリフがヴァルの口から発せられる。

ヴァル「…僕は町を守る。今度こそ自分の目に映る人達を救うんだ。…もう僕のせいで誰かが傷付くのは嫌だ。…だから、どんなことがあっても僕は町のみんなを守る!」
(そう言ってヴァルはビシッと正面を見据え、拳をギュッと握り締める)

―ここで暗転、場面はその日の夜へと変わる。状況は教会内にあるヴァルの部屋の中、机の上に置かれたランプの灯りにヴァルが照らされている、という感じ。

ヴァル「…そろそろだな」
(真っ暗になった外の様子を窓越しに見つめ、ヴァルはそう言って壁に掛けてあった神官騎士のマントを手に取り、部屋を後にする。そして暗く静まり返った礼拝堂を抜け、外に出ようと扉に手をかけようとするのだが、その前に外からノックの音が聞こえてくる)

ドンドンッ!
ヴァル「!?」
(一瞬ギョッとした顔になり、驚くヴァル。しかしすぐに冷静さを取り戻し、用心しつつ扉の向こうに声をかける)
ヴァル「どうしました、こんな夜中に…」
エル 「ヴァル! ヴァルなのね!?」
ヴァル「その声は…エルか!?」

ガチャッ!
―エルの声を聞き、慌てて扉を開けるヴァル。するとそこには旅支度に身を包んだエルが息を切らせて立っている。
 そしてエルはヴァルの顔を見るなり大きく息を吐き、安堵の表情でヴァルを見つめる。

エル 「よかった、間に合った…」
ヴァル「エル、一体どうしてここに? それに間に合った、って…?」
エル 「大変よ、ヴァル。あなたの命を狙って、盗賊の集団がこの町に向かって来てるわ。」
ヴァル「なんだって!?」
(エルの言葉に驚き、大声で聞きかえすヴァル)
エル 「どうやら教会の強硬派が雇ったらしいの。かなりの数らしいわ」
ヴァル「くっ、やはりそう来たか…」
エル 「え?」
(半ば予想していたかのような反応を見せるヴァルに不思議そうな顔をするエル。それを見たヴァルは昼間の出来事を話し始める)
ヴァル「実は今日、僕のところへメッセンジャーが教会からの命令状を持って来たんだ。内容はこの町での任務終了の知らせ、そして教会のティフィルトからの撤退だった」
エル 「そう…。これで一応の知らせは送った、という口実を作った訳ね」
ヴァル「やはり僕を始末しようと…?」
エル 「ええ、勿論それもあるわ」
ヴァル「それも? じゃあ他にも理由があるのか?」
エル 「…」
(ヴァルの問いに無言で頷くエル。そして手短に説明を始める)
エル 「…実はつい最近、この町の奥にあるティフィルト山脈に宝石の大鉱脈があることがわかったの。そして教会はその発掘の利権を全て得ようと、極秘裏に事業計画を立てたわ。…ヴァルがいるこの町を全て壊し、新たな町を作って発掘の拠点にする、という計画がね」
ヴァル「な…っ!?」
(あまりの衝撃に言葉を失うヴァル。エルはそんなヴァルに対し、申し訳ないような顔になりながらも説明を続ける)
エル 「その莫大な利益から、宝石鉱脈は関連施設も含め、全てを極秘にしなければならない…。そう考えた教会側は、各地から罪人を集め、彼らを労力として発掘をしようとしているの。…後で口封じのために殺してもいいようにね。山脈に一番近いこの町も同じ、事実を隠すため、「始めからここに町は無かった」と言い張るため、教会の活動を停止させたんだと思う」
ヴァル「…」
(両肩を小刻みに震わせ、思いっきり歯を噛み締めるヴァル。そして完全に怒りの感情を表に出し、町と外をつなぐ道の方向を睨みつける)
ヴァル「…なんて、なんて汚いヤツらだ…。僕だけではなく、何の罪もない町のみんなを口封じのために殺すなんて…。絶対に許さない!」

―最後は叫ぶように喋るヴァル。そして町の外へ通じる道めがけて走り出そうとする。

エル 「待ってヴァル!」
(ヴァルが地面を蹴りだそうとした瞬間、止めに入るエル。しかしヴァルは静止を振り切ろうとする)
ヴァル「止めても無駄だ! いくらエルでもこればっかりは譲れない!」
エル 「…」
ヴァル「こうして今の自分があるのも、この町のみんながいたからなんだ。だから僕はみんなを守らないといけない…、いや、守りたいんだ!」
(そう言ってヴァルはエルの横をそっと抜け、再び走り出そうとする。するとエルはふうと軽く息を吐き、少しだけ口元を緩ませる)
エル 「…ヴァル、私も一緒に行くわ」
ヴァル「え?」
(エルの同行の申し出に対し、止められるとばかり思っていたヴァルは思わず振り向いて聞き返す。するとそこには優しく微笑むエルの姿が)
エル 「…よかった。正義感の強さは昔と変わってない…。やっぱりヴァルはこうでなくっちゃね。急いで王都から駆けつけた甲斐があったわ」
(そう言ってエルは身に着けていた厚手のローブを脱ぎ捨て、外で活動する時のシスターの格好に姿を変える。動きやすいようにヴェールを外し、ロングブーツとナックルガードで手足を防護、という彼女独自の戦闘スタイルになるエル。それは始めからヴァルと共に戦おうと思っていた証拠で、それに気付いたヴァルは怒りの感情を静め、エル同様優しい顔になる)
ヴァル「エル…」
エル 「まったく、私とは長い付き合いでしょ? …昔からこういう時はいつも一緒に戦ってきたじゃない。だから今回も…ね?」
(エルはそう言うと、ヴァルに向かってウインクして見せる)
ヴァル「ありがとう、エル」
エル 「ふふっ、どういたしまして。…さあヴァル、行きましょう。情報によると、盗賊団の到着は今日辺りらしいの。多分もうすぐそこまで来てるんじゃないかしら?」
ヴァル「わかった。それじゃあエル、ついて来てくれ」

ダダッ!
―ヴァルの言葉を合図に走り出す2人。そして場面は変わり、町の外れにある道の前に。
道は深い森の中にあるものの、街道に通じている唯一の道だけあってそれなりに広い。ちなみに周囲に灯りはないが、月の光が差し込んでいて意外と明るい。

タタタタ…
(夜道を静かに走り抜けるヴァルとエル。2人とも敵の気配を探ろうと、絶えず周囲に気を配っている)
ヴァル「よし、この辺りで森の中に身を潜めよう。ここまで来れば例え大規模な戦闘になっても、喧騒は町のみんなに聞こえない。…それに奇襲で少しでも敵の数を減らせば、後の戦いが楽になる」
エル 「…了解」
(こうして走るのをやめ、音をたてないように森に入っていく2人。そして上手く物陰に隠れた後、ふいにエルが口を開く)
エル 「…もう完全に冷静なヴァルに戻ったみたいね」
(どこか安心したような口調のエル。それに対し、ヴァルは周囲に気を配りつつ、エルの問いかけに答える)
ヴァル「…ま、しばらく実戦からは遠ざかっていたけど、これでもまだ現役の神官騎士だからね。戦闘行動になれば冷静にもなるさ」
エル 「そう、それならいいけど…。でもどうなの? 身体がなまってる、なんてことはないわよね?」
ヴァル「ははは、それは大丈夫。こっちに来ても剣術の稽古はちゃんとしてるよ」
(そう言ってヴァルは懐から十字架を取り出し、スッ…と目の高さまでかかげる。そして精神を集中させ、ヴァルは全身から霊気を放出。その霊気を十字架に集め、青白く光る霊気の剣を造り出す)
ヴァル「…ほらね。僕の最大の武器は健在さ」
エル 「さすがヴァル、『神剣士』の称号は伊達じゃない、ってカンジね」
ヴァル「そう言うエルはどうなんだい? 見たところ、さらに法術の腕前を上げたみたいだけど…」
エル 「ええ、あれから私も色々と勉強して、難しい術をたくさん覚えたわ」
(エルはそう言うと、腰の辺りから聖書を取り出し、おもむろにページを開く。そしてヴァル同様、全身から霊気を放出し、聖書に凝縮。すると聖書は淡い赤色の光を放ち、エルの手を離れて浮かび上がる)
エル 「…ここから霊気にイメージを送り込めば、どんなものにでも姿を変えられるの。どう? これが私の訓練の成果よ」
ヴァル「驚いたな、確かこの術はかなり上級の魔道書を読み解かないと使えないはず…。エル、本当にたくさん勉強したね?」
エル 「勿論。…私だってもうあんな辛い思いはしたくないからね。少しでも強くなれば、それだけみんなの助けになれる。そう思って勉強してたら、いつの間にか使えるようになってたの」
ヴァル「そうか、エルも頑張ってたんだな…」
(感心と敬意を合わせたような表情でエルを見るヴァル。だが次の瞬間、遠くから馬の鳴き声が聞こえ、2人は即座に反応を見せる)

バッ!
(ヴァルは木の陰に隠れて霊剣を構え、エルは茂みに身を潜め、聖書を片手に素早く呪文を詠唱する)
ヴァル「来たか…」
エル 「…結構な数ね。どうする、ヴァル?」
(両耳に神経を集中させ、足音や声から敵の数を計るエル。すると判断を仰がれたヴァルは素早くエルの横に移動し、すぐさま指示を出す)
ヴァル「エルはここで法術を使って敵を足止めしてくれ。その間に僕は後ろに回りこみ、一気に攻めかかる。これで敵の体制が乱れたらこっちのもの、後はもう目の前の敵を確実に倒していけばいいだけだ」
エル 「わかったわ、ヴァル」
(エルはそう言うと、聖書に凝縮させていた霊気を具現化、何本もの光の弓矢を造り出し、エルの周囲に浮かばせる。それを見たヴァルはコクリと頷き、敵が来ている方向を見つめる)
ヴァル「仕掛けるタイミングはエルに任せる。僕はそれに合わせて動くから」
(そう言ってヴァルは低い体制をキープしたまま、素早く移動。あっという間に遠くの岩影に身を隠す)
エル 「…こういう時には本当に頼りになるよね、ヴァルって」
(エルはそう呟き、チラリとヴァルを見る。そして気持ちを切り替えるように真剣な顔になり、茂みの中から敵が来る方向に視線を移す)

ドドドドド…
―ここで場面は次第に大きくなる敵軍の物音と、地面を蹴る馬の足、そして少しずつ明らかになる敵の姿が展開。敵は全員「いかにも」という盗賊スタイルで、蛮刀やオノを手にして馬にまたがっている。

エル 「よ〜し、そろそろね…」
(肉眼でもはっきり確認出来るくらい近付いてきた敵に対し、エルはそう言って手にしていた聖書を胸元に当てる。そして造り出した無数の弓矢を操作し、標準を合わせて一気に放つ)

ギリギリギリ…、シュンッ! シュッ! ヒュッ!
エル 「いっけ〜!」
(エルの声に合わせ、光の矢が次々と放たれる。その矢は敵の先頭集団に命中し、馬に乗っていた盗賊がバタバタと落ちていく)
盗賊 「ううっ!?」
盗賊 「があぁぁッ!」
バタッ、…ドサッ!
盗賊 「な、何だ!?」
盗賊 「止まれ! 一旦止まるんだ!」
(いきなり倒れた仲間を目の当たりにし、混乱する敵集団。そして辺りは一気に喧騒に包まれ、ざわめきや怒鳴り声、馬のいななきなどが響き渡る。

―ここで場面は猛ダッシュをかけるヴァルの姿に変わる。そして敵集団の手前まで来たヴァルは大きく飛び跳ね、満月をバックに霊剣を振りかざし、敵集団の中に斬り込んで行く。

ヴァル 「うおおおっ!」
シュンッ、ズパアッ!
(剣を振る音が鳴った後、スタッ、と着地するヴァル。すると立ち上がると同時に、近くにいた数人の盗賊が倒れる)
エル 「…さすがヴァルね、王都で一番と言われた剣さばき、全く鈍ってないわ」
(そう言ってエルは剣を構えるヴァルを頼もしそうに見つめ、エル自身も茂みから飛び出し、盗賊の前に姿を見せる)
エル 「あなた達、もう逃げられないわよ!」
盗賊 「な、なんだテメェ!?」
ヴァル「これ以上ティフィルトの町には近付けさせない…」
盗賊 「こ、こっちにも1人いるぞ!」
(突然現れたヴァルとエルに驚く盗賊達。すると集団の中心からボスらしき男が登場、2人を交互に見た後、ニヤリと笑いながら口を開く)
ボス 「神官騎士とシスターか…。どうやら神官騎士のほうは始末を頼まれたマルス=ヴァルベインとかいうヤツだろう。シスターはそいつの仲間、といったところか。…フッ、まあいい」
(そう言って盗賊のボスは剣を抜き、大声を上げる)
ボス 「おいテメエら! 相手はたった2人だ、ギタギタにしてやれ!」

―ここで場面は現在の状況、位置関係を伝えるため、様々な角度から戦闘の様子を映し出す。そして次の瞬間、ボスの声を合図に、盗賊達が一気に2人に襲い掛かる。
まず始めにヴァルの戦闘シーンが先に展開。2人の盗賊が左右から斬りかかってくるところから始まる。 

盗賊 「うおぉらっ!」
盗賊 「くたばれぇ!」

ブンッ、シュッ!
(勢い良く振り下ろされた敵の斬撃だが、ヴァルは難なくかわし、カウンターを仕掛ける)
ヴァル「甘いっ!」
(クルリと身体をひねり、その反動で霊剣を横一文字に振って2人の敵を同時に斬るヴァル。続いて4〜5人が囲むように襲い掛かるが、その攻撃も軽くかわし、すさまじいスピードで1人ずつ片付けていく)

―続いて場面はエルの戦闘シーンに。聖書を片手に持ち、その背後には霊気で造り出したペガサスを浮かばせているエル。その先には数人の盗賊が剣を構えているが、なかなか踏み込めないでいる。

盗賊 「うあああっ!」
盗賊 「くっ、てりゃあっ!」
(やがてこの張り詰めた空気に耐え切れず、2人の盗賊がエルに向かって襲い掛かる)
エル 「はああっ!」
ゴオオッ!
(しかし敵の攻撃が届く前に霊気のペガサスが1人を蹴り飛ばし、もう1人はエルが唱えた風の魔法で吹き飛ばされ、木に叩きつけられる)

盗賊 「…な、なんだコイツら?」
盗賊 「メチャクチャ強いじゃねえか…」
(そう言ってジリジリと後ずさりする盗賊達。だがこのままやられっぱなしではいけないと奮起し、集団で2人に斬りかかっていく)

―その後、場面はしばらく戦闘の様子が展開。ヴァルは華麗な剣技で、エルは霊気で造り出した神獣を模したものと魔法・法術で襲い掛かってくる盗賊達を次々と倒していく。
 そしてしばらくすると、敵の集団はほぼ壊滅、残るはボスと取り巻き数人、という状態に。

盗賊 「クソがあっ!」
ブンッ、シュン! カキィッ、シュッ、ブンッ!
(ヴァルに襲い掛かった盗賊はそこそこの腕前で、それまでほぼ一撃で片付けてきたヴァルに対し、初めて斬り合いをさせる。が、必死の形相で剣を降る盗賊に対し、ヴァルは余裕のある顔で敵の剣筋を読んでいる。そして盗賊が大きく振りかぶった瞬間、素早く斬りつけてすり抜ける)
盗賊 「う、うう…」
(バタン、と倒れる盗賊。それととき同じくして、反対側でもエルが盗賊を魔法で倒しており、もう1つバタンという音が鳴る。これで残るはボス1人となり、ヴァルとエルは2人並んでバスの正面に立つ)
ボス 「くっ、まさかここまでの使い手とは…。教会のヤツらめ、全然話が違うじゃねえか!」
(そう悪態をつきながらも、剣を構え、2人を睨みつけるボス)
ヴァル「…僕のことをどう聞いたか知らないが、ティフィルトの町を襲おうとする者は誰であろうと容赦はしない。恨むなら仕向けた教会を恨むんだな」
エル 「…」
(ヴァルの言葉に「その通り」と言わんばかりに頷くエル)
ボス 「クソが…、くたばりやがれ!」

ダッ! 
ヴァル「ッ!?」
ヒュンッ! ガキィッ!!
(ボスは叫び声を上げると同時に地面を蹴り、素早くヴァルに向かって斬りかかる。そのスピードはかなりのもので、ヴァルも剣で受け止めるのが精一杯)
ボス 「まだまだぁッ!」
ブンッ、シュッ、カキィィンッ、シュッ!
(ボスはそのまま連続で攻撃を仕掛け、ヴァルをジリジリと後退させる。しかしダメージを与えるには至らず、ヴァルは攻撃の全てをかわすか剣で受け流す)

―ここから少しの間、場面は斬り合いを続ける2人の様子が展開。両者交互に攻撃と防御に回り、激しく動き回る。その後、2人は一旦間合いを取り、睨み合いを続けることに。ちなみにこの時、ボスは息を切らしているのだが、ヴァルは全く息を乱しておらず、冷静な表情も一切崩す事無くボスを見据えている。

ボス 「ウオオオッ!」
ヴァル「はあっ!」
ガキッ! …ギギギギ…、カキィィンッ!
(睨み合いの後、2人は同時に斬りかかり、剣と剣での押し合いに発展。しかしすぐにヴァルが上手くボスの剣をさばき、体制を崩したボスの背中に斬撃を喰らわせる)
ズシャァッ!
ボス 「…ぐあッ!?」
(致命傷、とまではいかないものの、ボスは背中に大きな傷を負い、その痛みで顔を歪ませる)
ボス 「ヤ、ヤロウ…、許さねえぞコラ!」
ダダッ!
(痛みを気合で吹き飛ばし、再びヴァルに向かって斬りかかってくるボス。その攻撃は先程よりも素早く、また手数も多くなっている)
シュッ、ブンッ、ズシャッ! キンッ、ガキィッ!
ボス 「オラオラッ!」
ヴァル「たあっ、せいっ!」
(両者の斬り合いは激しさを増し、時折交える剣先からは火花が飛び散る程。だが時間が経つにつれ、無傷のヴァルが優勢になってくる。そしてしばらく斬り合いが続いた後、ボスが必要以上に力を入れて剣を降ってしまい、体制を大きく崩してしまう)

ヴァル(心境セリフ)
 …今だ!
(ヴァルはボスが体制を崩した瞬間を見逃さず、肩口を狙って斜めに剣を降る)
ボス 「かかった!」
ヴァル「何ッ!?」
(なんと体制が崩れたように見えたのはボスの作戦で、ヴァルが剣を振ると同時にボスは身体を素早く反転、攻撃をかわしつつ反撃を仕掛けてくる)
ボス 「死ねえッ!」
ブンッ!
ヴァル「うおおおっ!」
ゴオオォォッ!
(ボスの剣が刺さる直前、ヴァルは大声を上げながら左手に霊気を集中、瞬時に光弾を造り出し、ボスの腹部に叩き込む)
ボス 「う、うああっ!」
ドガアァッ、ザザザザザ…!
(至近距離から光弾を喰らったボスは思いっきり吹っ飛び、地面に叩きつけられる)
ボス 「ま、まさかテメエも法術使いだった、とは…。き、聞いて、ねえ…」
…バタッ
(その言葉を最後にボスは倒れ、戦いはヴァル達の圧勝で幕を閉じる)

―その後、場面はヴァルとエルがパチンと手を叩き合い、そのまま2人並んで町へと戻る、という画に。そして一度暗転し、続いて場面は2人が町の入口の手前に来たところから始まる。

エル 「…よかったね、無事に町を守れて」
ヴァル「うん。これもエルが来てくれたおかげだよ。ありがとう」
エル 「どういたしまして。…でも間に合ってよかった。あとほんの少しでも遅かったら、ヴァル1人で戦わなきゃいけなかったもんね」
ヴァル「もしそうなっていたら、こんなに簡単には勝てなかったかもしれない。ホント、エルには感謝してるよ」
(ヴァルの言葉を聞き、嬉しそうな顔になるエル。と、その時、ふと視線を町の入口に向けたエルが何かに気付き、声を上げる)
エル 「ねえヴァル、町の入口に人が立ってる…」
ヴァル「本当だ…。まさか何かあったんじゃ!?」
エル 「行ってみましょう!」
(そう言って走り出す2人。そして急いで町の中に入ると、そこには夜中だというのに、ほとんどの町人が揃っていた)
ヴァル「みんな…、一体どうして?」
(何がどうなっているのか分からない、といった感じのヴァル。すると町人を代表するようにマークがヴァルの前に立ち、口を開く)
マーク「どうした?と聞きたいのはこっちのほうだぜ、神官。…一体オイラ達の知らないところで何をしてたんだ?さっきまで聞こえてた物音はなんだったんだ?」
ヴァル「聞こえていたのか…」
(しまった、という表情になるヴァル。しかしすぐに意を決し、先程までの出来事・いきさつを説明する)
ヴァル「…これはもう少し落ち着いてから話そうと思っていたのだが…」

―ここで場面は暗転し、説明をあらかた終えたところからシーン再開となる。

ヴァル「…と、いう訳なんだ」
マーク「そんなことが、あったのか…」
(やや暗い表情でそう言い、うつむくマーク。他の町人も同じ気持ちのようで、誰も口を開こうとしない)
ヴァル「…こうなってしまった以上、ここにいては危険だ。いつまた教会の刺客が襲ってくるか分からない。幸い今回は怪我人が出ることはなかったが、次はどうなるか僕にも検討がつかない。…だから、みんなは一旦この町から離れ、どこか安全なところに移り住んでほしい」
(みんなの気持ちを察し、辛そうに話すヴァル。その横ではエルも同じような顔で町人を見ている)
マーク「…アンタは、神官はどうするつもりなんだ?」
ヴァル「僕はここに残り、出来る限り敵からこの町を守る。そして守りきることが出来たらみんなを呼び戻し、またここで暮らしたい…。そう思っている」
マーク「…」
ヴァル「…僕はこの町が好きだ。この町に来てから1年前、僕はみんなに大切なものをもらった。それは聖職者としての真の喜び、生きがい、そして何より人の温かさを思い出させてくれた。それまでの僕は王都で起きたことをずっと考え、怒りと悲しみだけを抱いて生きてきた。それを変えてくれたこの町、そして町のみんな…、その両方がまた教会の手によって壊されようとしている。僕はそれが許せない」
(始めは淡々と語っていたヴァルだが、中盤以降は感情を表に出し、時折大きな声になって話を続ける)
ヴァル「だから今度は僕がみんなに恩返しをする番。命に代えても僕はこの町を守る、そう決めたんだ」
マーク「神官…」
(マークは両手を震わせながらそう言うと、バッと顔を上げ、ヴァルの目を見ながら同行を申し出る)
マーク「悪いがオイラはここに残るぜ、神官。…アンタは恩を返す、と言ったが、恩義があるのはオイラ達のほうだ。もしアンタがいなければ、今頃この町はメチャクチャになってたに違いねえ。…そうじゃなくてアンタは町のために今まで色々頑張ってきてくれたじゃねえか、その礼も返せねえまま町を去るなんてこと、オイラには出来ねえ!」
エル 「…ねえヴァル、当然私は一緒に戦う戦力として数えてくれているんでしょ?」
(マークに続いて口を開くエル。その口調はもうすでに一緒に戦うことが決まっているような言い方で、最後に少し口元を緩ませ、「もう決めたからね、帰れって言われてもイヤだよ」と言わんばかり。
ヴァル「マーク、エル…」
(ヴァルは2人の言葉に一瞬驚くが、すぐにパアッと明るい顔になり、心の底から協力の申し出を喜ぶ。すると町人からも次々と協力を申し出る者が現れ、結局全員がこの街に残り、ヴァルと一緒に町を守るために戦うことを選ぶ)
マーク「…よし、決まりだな」
(その様子を見ていたマークは満足気にそう言うと、ヴァルの背中を叩き、みんなに改めて挨拶をするよう促す。するとヴァルはコクリと頷き、数歩前に出てみんなの顔を見渡し、ゆっくりと口を開く)
ヴァル「さっき僕が言った通り、この町は今に危険な場所になってしまう。それでもここに残り、町を守るために一緒に戦う、と言ってくれたこと、僕はとっても嬉しい。…勿論これからは危険なことがたくさん起きるだろうし、教会はありとあらゆる手段を使って攻めてくるだろう。でも、みんなが力を合わせれば、きっとどんな困難にも打ち勝てると僕は信じてる。…それじゃあみんな、町を守るため、一緒に頑張ろう!」
(ヴァルの言葉が終わった瞬間、周囲は町のみんなの歓声に包まれる)
ヴァル「…」
(穏やかな笑顔でみんなの様子を見るヴァル。と、そこへエルが近寄り、話しかけてくる)
エル 「やっぱりヴァルにはみんなを惹きつける力、頑張ろうって思わせる力があるね」
ヴァル「ううん、僕にそんな力はないよ。これはみんなが持っている力、強い想いさ」
エル 「ふふっ、ヴァルらしい答えだね」
(そう言って微笑むエル。そして言葉を続ける)
エル 「…ヴァル、これからもよろしくね」
ヴァル「うん、よろしく」
(2人はそれだけ言うと、全てを理解したような顔で頷き合い、一緒に沸き上がる町のみんなを見つめる。そしてここでヴァルの心境セリフが入る)

ヴァル(心境セリフ)
 …こうして僕は1年余りの時を経て、再び教会を相手に戦うことになった。
 もう決して同じ過ちは繰り返さない、どんなことがあってもみんなを、仲間を、そして愛すべきこの町を守る。今この瞬間から、それが僕の目標、僕の全てになった。
 例え敵がどんなに強大でも、どんな汚い手段を使おうとも、もう僕は決して負けない。
そう、決してー 


                               「CROSS † RECALL」第1話 終了






 「CROSS † RECALL」シリーズ構成



 
 ・第2話
第1話での敵の襲撃を受け、自警団を中心に町の守りを固めることに。すると完成したばかりの物見やぐらから、次なる敵集団発見の報告が。万全の体制で待ち構えていると、そこへヴァルの親友が現れ、協力を申し出ると共に、やぐらから見えた敵集団はおとりで、本隊は反対側に隠れている、ということを伝える。彼の登場により、敵襲を見事撃破。戦力もあがる。

 ・第3話
ヴァル達が敵軍のキャンプに奇襲をかけているところからスタート。戦闘終了後、奇襲は王都にいる昔からの仲間が情報を教えてくれた、という説明が展開、以降その王都にいる友人の話や、ヴァル達の過去についての回想シーンが入り、現在に至るいきさつを詳しく説明する。

 ・第4話
ヴァル達が自警団員に稽古をつけているところからスタート。その夜、町の酒屋でちょっとした宴会が行われる。楽しい席なのだが、酒が苦手なヴァルはすぐにダウン。その後、酔い覚ましを兼ねてシスターと散歩。ちょっといい感じになるが、酔っ払ったみんなの冷やかしが入り、うやむやになってしまう。

・第5話
色々と用事が重なったり、急なトラブルに見舞われ、主力メンバーであるヴァル、親友、シスターが町を離れるor戦闘参加不可になってしまう。なんとタイミングの悪いことに、そこに敵襲が。ピンチかと思われたが、今こそ町を救ってもらった恩義に報いようと、自警団員達が大奮闘。改めて町のみんなの大切さを思い知ることに。

・第6話
ここ数日、誰かに見られている気がする、というヴァルの独白からスタート。その感覚は当たっており、教会が仕向けた名うての殺し屋の少女が忍んでいた。その後、ヴァルが1人でいるところを見計らって奇襲をかける殺し屋の少女。激戦の末、ヴァルは何とか勝利。殺し屋の過去や境遇を聞いたり、自分の想いを告げたりした結果、少女は改心して味方になる。

・第7話
前話で仲間になった殺し屋の少女を交え、今後の作戦会議をするヴァル達。が、メインはその後の歓迎会で、みんなで少女を暖かく迎える。予想外の出来事に驚き、そして人の優しさに初めて触れた少女は涙を流して感謝。閉じていた心を開く。

・第8話
王都の友人からの知らせや、偵察に向かっていた少女の報告により、今までとは比べ物にならない数と戦力を持った敵軍が向かってきていることを知るヴァル。どう考えても勝ち目がない、そう思っていたところに神官騎士団長時代の部下が忠臣を引き連れて登場、ヴァル達と共に敵軍と戦うことに。強力な援軍のおかげで見事敵を撃破、新しい仲間が増える。

・第9話
ヴァルの親友がメインとなる回。王都で一緒に活動していた時の話や、反乱の失敗談などを彼の視点で展開、ヴァルに対して感じている負い目や謝罪の気持ちが明らかになる。その後、ヴァルと親友の2人で森の中を歩いているシーンが展開、奇襲を受けることになるのだが、ヴァルを守ろうと親友が大活躍。戦闘後、もうヴァルに迷惑はかけない、と決意を新たにする。

・第10話
みんなで力を合わせ、敵を撃破した所からスタート。自警団も近衛団も協力し合い、1つの集団になってきたことを実感するヴァル。と、そんな所へ王室の使いが現れ、国王がヴァル達の活動に協力したいと思っていることを伝える。それを聞いたヴァルは一度国王に会おうと、シスターや親友など、ごく少数の仲間と共に王都へ向かうことに。そして王に謁見したところで11話へ。

・第11話
国王の元を訪れたヴァル達。名君と称される国王は噂以上によく出来た人物で、ヴァル達の行動に自分も何か協力させて欲しいと懇願してくる。それに対し、ヴァルは快く同盟を結び、共に今の教会の体質を変え、本来の姿を取り戻そうと誓い合う。そして話し合いの結果、ヴァル達と王国軍で教会本部に乗り込むことに。早速町に戻ってみんなに報告すると、全員戦う意思を見せ、団結の気持ちをさらに強める。

・第12〜13話
最終決戦。王都にある教会本部に乗り込むヴァル達と王国軍。国王も自ら剣を持ち、ヴァルと共に先陣を切ることに。こうして戦闘は開始、敵の本拠地だけあって、かなりの戦力で迎え撃つ教会側。しかしヴァル達は勇敢に戦い、見事勝利を収める。
そしてエピローグ。新たな教会にはヴァル達が要職に就き、再建を図ると同時に本来の役目である民のために働く日々が展開。ラストシーンはヴァルが王都を去った時、シスターと言葉を交わした場所でヴァルがシスターに告白し、抱き合ってハッピーエンドに。






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