「夢見る少年、夢売る商売」




小学生の頃、僕はズッコケシリーズが大好きだった。
それは物語の面白さは勿論、ちょうど自分と同じ学年の小学生が主人公、という事も大きな理由で、当時出ていた全てのシリーズを夢中になって読んでいた。
中でも一番好きな、そして色々と印象深い思い出を作ってくれたのが『うわさのズッコケ株式会社』、内容は主人公である3人組がクラスメートから出資を募り、それを元手に商売を行い、還元してみんなのお小遣いを増やそうというもの。
小学生だった僕は「お小遣いを増やす」という行為に、そしてその手段が「自分達で行なう商売」という所に大きく惹かれ、その本を読み終えた時、僕は「自分もやってみたい!」と強く思うようになっていた。

物語では主人公の1人が近所の防波堤に釣りに行き、その人の多さに「ここでジュースやお菓子を売ったら大もうけ出来るんじゃないか?」と思った事がきっかけ。
その後、仲良しの2人に話を持ちかけ、実際に商売を始めるのだが、ちょうど釣りのシーズンという事で商売は大当たり。以降3人はどんどん事業を大きくしていき……と、物語は進んでいくのだが、僕はその「防波堤で釣り人相手に商売を」という行為にあこがれを抱いていた。

実は僕も子供の頃から釣りが好きで、よく自転車を漕いでは防波堤まで釣りに行っていた。そこは物語と同じで釣り人が多く、実際にジュースやお菓子を売りに行ったらきっと成功するだろうと、もしかしたら物語の3人組より稼げるんじゃないか、と僕は考えていた。

そして物語の主人公同様、仲のいい友達に話を持ちかけるのだが、現実というのは物語と違って上手くいかず、見事なまでに断られてしまった。
「許可がないと商売は出来ないんじゃないか」、「安く仕入れる方法が無い」、「物語を真に受けるな」、返って来たのはそういった言葉ばかり。しかもそれらは悔しい事に正論、実に的を射た発言であり、自分は反論する事も出来ず、結局計画は計画のままで終了。お小遣い大幅アップの夢も、防波堤で「ジュースいかがですか〜?」と言いながら売り子をする夢も消えてしまった。

こうして小学生だった僕の夢は悲しい終わり方をしてしまったのだが、今となってはそれもいい思い出。物語の中のような成功に憧れ、その夢に向かって少しでも行動を起こした事に対し、僕は当時の僕を褒めてあげたいと思う。
計画すら立てず、友人に話を持ちかけもせず、所詮は作り話だと冷めた事を言うより、夢にあふれた考えを抱けた自分。
大人になった今、それがどのくらい素晴らしい事なのか、どれだけ誇れる事かを知った今、僕には幾つか出来る事があるんだと気付く。

もし防波堤に釣りに行き、そこで子供がジュースを売っていたら。
例え自販機より少し値段が高くても、少しぬるくても、僕はその子供からジュースを買おうと思う。
それは僕が出来なかった事を、夢見ながらも実際には出来なかった事をやれている子供に対する敬意。そしてちょっとした投資。

いつかその子供が立派になって、大きな会社なんかを興してくれたら、僕は本当に嬉しい。
そしていつか成功談話として、「あの時、防波堤でジュースを買ってくれた人に感謝したい」なんて言ってくれたら最高に嬉しい。

そんな夢一杯な事を今になっても言えるのは、心の底から思えるのは、僕が小学校の頃に読んだ本のおかげ。やっぱり読書っていいですね。








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